東方輪廻殺
第五話 神殿

神殿があった
大きくて立派な石造の神殿
ピラミッドのような石段の一つ一つの石は数トンはありそうだ
そんなずっしりとした重い雰囲気がこの無人の神殿に漂っていた
何か途轍もないものが息づくような…雰囲気が漂っていた…
夜だからか…かなり不気味で悪魔の城と言っても違和感は無かった

「姉御ぉ…本当に入るんですかい?」

その神殿の階段の一段目あたりの所に二人分の影があった
階段に登ってすらいない一人がもう一人に弱々しく呟く

「帰りましょうよぉ〜…ただでさえ禁域なのに見るからにやばそうな神殿に入りたくないですよぉ〜」

「うるっさいわね!嫌なら一人で帰りな!」

姉御と呼ばれた人物が答える

「一人じゃ帰れませんよぉ〜…姉御の能力が無いと…」

「じゃあ大人しくついてきな!」

「はぁぁ〜〜〜……」

二人はそんなしょうもないやり取りを繰り返しながら神殿へ入っていった





「やっぱり帰りましょうよぉ〜…」

「情けないねぇ…アンタそれでも男かい!こういう所にとびきりのお宝があるもんじゃないか」

女はそう言い能力を使って神殿内部に侵入する
狭い通路に出た
薄暗く壁の所々に明かりとなる箇所があるがどれも火は灯っていない
壁や地面、天井等は銀色に鈍く輝いており どう見ても石では出来ていない
外から見たときは石造の神殿かと思ったが…

「そうは感じられませんよぉ〜…お宝どころか魔王が居そうですよぉ〜…」

神殿内部に侵入してもなお男が弱音を吐く

「はいはい…アンタの弱音はどうでも良いから…サーチして」

弱音吐くくらいなら仕事しろと言わんばかりに女は指示する

「はぁぁ〜〜〜……」

男は深いため息を吐いて地面に両手を付け能力を発動する
しかし見た目の様子は変わりは無かった

「どう?」

女が問う

「………このフロアには4体程動きがあります…その内2体は我々ですぅ〜…」

「じゃ敵は2体なわけね?」

「今のところはそうとしか答えられません〜…」

「距離と方角」

「僕を正面に11時と2時の方角ですぅ〜…距離は左が約80M…右が約55Mといった感じですぅ〜…」

「別のフロアへ進む道はあるかしら?」

「階段らしきものがありますぅ〜…しかしどのルートで行っても必ずどちらかの何かに遭遇しますぅ〜…」

「ふ〜ん…よし!じゃあ右から行くわよ」

「嫌だなぁ〜…」

二人は入ってきた通路の向かって右の道を進んだ


「ところで罠とかはあった?」

慎重に進みつつ思い出したかのように女が問う

「流石にそういうのはありませんでしたぁ〜…極めて単純で迷う事は無い筈ですぅ〜…」

「そう…じゃあ後は敵だけね〜…曲がり角に着いたわ…サーチして」

「はいはぁ〜い」

男は再度地面に両手を付けて能力を発動する

「僕を正面に9時と7時の方角に反応ですぅ…左が約20M…後ろが約230Mといった感じですぅ〜…」

「わかった…すぐそこね…油断しちゃダメよ…」

「流石にわかってますぅ〜…」

女は壁に背をつけてゆっくりと曲がり角の先を覗き見る
そこには真っ黒い影が1体立っていた

「…何かしらアレ……暗くてよくわからないわ…明かりが欲しいわね…」

「姉御の目でも見えないんですかぁ〜…?」

「何と言うか…真っ黒なのよ…アンタも見てみなさい 後ろは警戒しとくから」

今度は男が曲がり角の先を覗き見る

「…確かに何かわかりませんねぇ〜…姉御の言うとおり真っ黒ですぅ〜…」

「他にルートはあるかしら?」

「サーチしてみますねぇ〜…」

男は再度地面に手を付け能力を発動する

「………!姉御!大変だ!反応が増えている!」

先程までのゆるい口調とは一変して男が焦る 表情も険しい

「………っ!に、26…?いや…30?先程までと比べ物にならない反応が…!」

「…チッ 気づかれたのか? 脱出するぞシュウ!」

そう言って女は男の腕を掴み 能力を発動して脱出した


「ここまでくれば大丈夫か?…さぁシュウ…何を感じ取った?」

神殿の外へ出て 階段も一気に下った後一息入れて女が問う

「フロア全体の通路に次から次へと反応が増えていましたぁ〜…」
「それも数え切れない量でしたぁ〜…やっぱりもう帰りましょうよぉ〜…」

シュウと呼ばれた男はもう入るのは嫌だと顔で訴えながら質問に答える

「…夜明けになったらもう一度あの神殿に入るぞ 今日は野宿だ」

それを聞くとシュウはさらに嫌そうに反論した

「えぇ〜!?禁域で寝るんですかぁ〜!?」

「既に神殿に入ってるんだからもうどうでも良いでしょ」

今更どうなろうが問題無いと女が言う

「帰りたいよぉ〜…」

「次がダメだったら帰るからそれまで我慢しなさい」

「はぁぁ〜〜〜……」

シュウは再度深いため息を吐いた





夜が明け
神殿の周りも先程とは違って明るく見えた
夜と比べて若干重い雰囲気が消えている気がしなくも無い

「さぁ!行きましょうか」

「何も無いと良いですけどねぇ〜…」

「何言ってんの!お宝が無いとダメでしょ!」

神殿に近づく
夜入った場所とは別の場所で出来るだけすぐ次の階層へ行けそうな場所を選んだ

「準備はいいかしら?」

「帰る準備ならバッチリですぅ〜…」

「中に入る準備よ」

「無事に帰れるならどうでもいいですぅ〜…」

ふざけた事を言いながらもしっかりと持ち物を点検するシュウ
点検が終わるのを女はじっと待っていた

「問題無いですぅ〜…」

「じゃ…行くわよ」

再度神殿へ入る





「お…ドンピシャ さっすがシュウね」

中に入ってすぐに下へと続く階段があった

「早速行きましょう」

「待ってくださいよぉ〜…」

二人が下へと降りる

降りる途中で下の階が見えてきた
かなり広くどこからか陽の光が差し込んでるのか妙に明るかった

「へぇ…綺麗ね…」

壁や地面、柱等が眩しくない程度にキラキラと光る 中々神秘的な場所だ
先程の階と違ってまるで水晶の中のような場所だった

「見渡す限り何も居ませんけど一応サーチしますねぇ〜…」

シュウが迅速に能力を行使する

「………反応は無いですぅ〜罠もありません〜 "今は"安全ですぅ〜…」

「よし…じゃあとっとと次に行くわよ」

「あ、待って下さいよぉ〜姉御ぉ…」

広間の奥へ行き階段を下りる




次の階へ着く
ここも明るかったが先程の階よりかは遥かに暗かった
此処まで光があまり届かないのだろう
しかしそれでも明るいのは地面や壁等が先程とは違う不思議な光り方をしていたからだった

「この神殿は何で出来てるのかしらねぇ…」

今度は銀でも水晶でも無い輝きがあった 見る角度を変えるたびに違った光り方をするのだ
まるでコンピューターディスクのような反射だ しかしディスクのように直線的な虹色には光らずぐにゃぐにゃと光っている
奇妙かつ美しい神殿内部を楽しみつつ奥へ進む
此処も先程同様反応は無く今の所安全だった

「でも流石に少し暗いですねぇ〜…」

シュウが続く
しかしこの階も十分明るいのだ
どちらかと言うと先程の水晶の階が明るすぎたと言った方が正しいかもしれない

「大丈夫でしょ この程度で暗いって言うなら夜の外なんて真っ暗闇同然よ」

そして次への階段へ着いた

「………下の階が見えないわ…」

「不安になりました姉御ぉ…」

先程までと違って今度の階段はある程度進んだ先が真っ暗だった
流石に降りる気が失せる

「此処から先は明かりが必要そうね」

「やっぱり行くんですねぇ〜…」

ガックリとシュウはうなだれ 二人は下の階へと降りていった




「流石に…暗いわね…」

此処まで来ると陽の光は届かないのか完全に真っ暗だった
手を伸ばせば途中で手が見えなくなる程 明かりが無ければ視覚は全く役に立たない程の闇
手元の明かりだけが頼りだ お互いの姿を確認できるよう明かりの光をできるだけ強くする

「………反応は無い…ですが…今度は先程までの広間ではなく通路のようですぅ〜…」

ますます気力が減る
一寸先も見えない真っ暗闇の中通路が続くという
壁にぶつからないように気をつけなければ…

「一階のように単純な通路なのよね?」

「それが…そのぅ…申し上げにくいのですが…迷路状ですぅ…」

「ますます気が滅入るわね…シュウ 最短ルートでお願い」

「わかりましたぁ〜…」

少し進んでは右へ…少し進んでは左へ…曲がった直後にまた曲がったりを繰り返し
まるで迷子になった気分だ 周りが全然見えないのが不安を煽る

「シュウ…まだ?」

「まだですぅ〜…相当広い上複雑なので道を知らなければ永遠に彷徨いそうですぅ〜…」

「そうね…シュウ…アンタが居て助かったわ」

雑談をしつつ進む ある程度進んでは左へ…少し進んでは右へ…
一定時間毎に何度も何度も能力を使うシュウは相当疲れているだろう

「もうすぐですぅ〜…」

「そう…頑張って…シュウ」

少し進み 4,5回程曲がってシュウが止まる
ようやく下の階への階段が見えた

「………やっぱりこの下も見えないわね…」

「もうクタクタですぅ〜…帰りたいですぅ〜…」

「もう少し我慢して…此処まで来て手ぶらで帰るのは嫌よ」

二人は下の階へと降りていった





「よっと…さ、シュウ…サーチして」

階段を下りていつものようにシュウが能力を使う
この階も先程の階同様真っ暗闇で何も見えない
多分…此処から先はずっと真っ暗なのだろう

「今度は広間のようですぅ〜…しかし奥へと続く階段らしきものは見当たりません〜」
「多分此処が最深部のようですぅ〜…そして反応が1つ広間中央にありますぅ〜…」

「…敵か…お宝は?」

「それらしきものは…広間の外側にいくつか見えますが…」

「見えるけど…何よ?」

「どうやって行くかわかりません〜…まるで壁の中に埋まってる感じですぅ〜…」

「どういう事かしら?」

少し意味がわからなかった 埋まっている?
埋まっているならシュウの探知には引っ掛からない筈だ

「わかりやすく言うと此処のフロアは二重丸のような形なんですぅ…我々はその内側に居ますぅ〜…」
「外側に確かに空洞があり通路となってますぅ〜…しかしどうやってそこへ入るかわかりません〜」

「困ったわねぇ…道を間違えたのかしら?」

お宝がある場所にいけないなら結局お宝を入手する事はできない
折角此処まで来て無駄骨になるのは嫌だ

「それはありえません〜…先程の迷路では出入り口は各一つずつでしたぁ〜…」
「それに先程から言ってますが外側の通路には階段らしきものは感じられません〜」
「このフロアの階段は我々のすぐ後ろにあるこの階段だけですぅ〜…」

「そう…中央の反応は?」

「動きません〜…どうしますぅ〜…帰りましょうよぉ〜…」

「はぁ…せめて中央の反応が何か調べてからね」

「触らぬ神に祟り無しですぅ〜…帰りましょうよぉ〜…」

「大丈夫大丈夫 危険と思ったらすぐ脱出するから だから手繋いで行きましょう」

「はぁ〜〜〜……」

明かりを持ってゆっくりと広間中央へ近づく


やがて何者かの後姿が見えた 座っている 小柄な女だ
こちらに気づいていないのだろうか?ピクリとも動かない

女はゆっくりと静かに話しかけた

「…あんたは誰かしら?」

それに反応するようにビクッと動き何者かは座ったままこちらを振り向く

「………そういう君は誰だ?どうやって此処まで来た?」

何者かは警戒しながら問いかける

「あぁ…私等はただのトレジャーハンターさ…」
「私はルゥ んでコイツがシュウって言うんだよろしく〜」

ルゥが答える

「トレジャーハンター?…よく迷路を突破できたね…」
「あの迷路を突破できた者は今のところ君等が初めてだよ」

「だってよ?シュウ 良かったわね自慢できるわよ」

「それより貴女は誰でしょうかぁ〜…?」

シュウが問いかける

「私の名は『焔 牢姫』…そうね…この神殿の主と言えばいいかな?」

牢姫がシュウの質問に答える

「そう…牢姫さん 私等お宝が欲しいんだけど そういうの無いかしら?」

ルゥが此処まで来たんだから何かくれよとそういう砕けた口調で牢姫に宝を要求する

「お宝ねぇ…少ししか無いよ」

牢姫がルゥの質問に答える

「ホント?できれば譲ってくれない?」

「姉御ぉ…流石に直球すぎますよぉ〜…」

「いいじゃない別に…」

遠慮なんて知らないと言わんばかりにルゥは宝を求める

「んー…良いよ…私の邪魔をしなければね 勝手に持っていきなよ できるものなら…」

宝なんてどうでも良いと言わんばかりに牢姫は許可を出す

「やった!んで何処にあるの?」

「この階の外にあるよ」

「やっぱりアレ等がお宝だったんですねぇ〜…」
「隔離されたあの通路に入るにはどうすれば良いんですかぁ〜…?」

シュウが問う
あの外側の通路には一切階段が無い 出入り口のない埋まったトンネルのようなものだ
出入りできなければお宝は入手できない…

「普通に空間を飛べば良いだろう?」

牢姫が当然のように答える

「私等は空間転移なんか出来ないわよ どうするシュウ?」

「ちょっと待って下さい〜 もしかしたら転移装置があるのかも〜…」

シュウが能力を発動する

「ん…ありましたぁ…!目の前ですぅ〜…」

「目の前?」

ルゥが目の前と言われて牢姫を見る

「牢姫さんのすぐ真下ですぅ〜…」

「ほぅ…?面白い能力を持ってるね君」

牢姫がシュウを素直に褒める

「そう…そこが転移装置なのね…牢姫さんちょっとどいてくれる?」

「それは私の邪魔する事になるんだけど?」

「だそうですよぉ姉御ぉ…もう諦めましょうよぉ〜…牢姫さんにも迷惑ですしぃ〜…」

「シュウ!あんた此処まできてお宝を逃すつもりなの!?」
「お願い牢姫さんお宝入手したらすぐ帰るから!一度だけで良いから転移させて!」

ルゥが頭を下げる それを見てシュウも続くように頭を下げた

「邪魔をしなければと言った筈だ…君達に構ってる時点で私は十分譲歩している」
「コレ以上は力づくで何とかしてご覧」

牢姫がニヤリと笑いそう答える
決して譲らないという意思があった

「困ったわねぇ…暴力は好きじゃないんだけど…」

牢姫の答えにルゥは残念そうに言う

「やっぱり諦めて帰りましょうよぉ〜…」

またもやシュウは帰ろうと弱音を吐く

「いや…ここは牢姫さんの言うとおり…力づくで行くわ!」

ルゥはそう宣言した後 即座に銃をぶっ放した
しかし命中する前に弾は何かに弾かれてしまう

その直後二人の足が切り裂かれる
何が起きたかわからなかったがルゥはすぐに勝てない事を判断しシュウの元へと向かう

「ぐぅっ!?…シュウ!手を伸ばして!脱出するわ!」

ルゥはシュウにそう呼びかけるも反応が無い
何とか這い寄りシュウへ触れ能力を発動した

牢姫の前から二人が消える ルゥの能力により脱出したのだろう
だがそんな二人に話しかけるように牢姫は口を開く

「君たちはもう終わりだ…無駄に消耗した魔力は君たちの命で補わせてもらおう」




神殿外部
ルゥの能力により入った場所へと転移したのだ

「くそっ!素直に退くべきだったか…!」

動けない…両足を骨ごと切られている
かなり痛いが逃げなければならない 痛みを我慢して何とか移動する

「シュウ!」

「………」

さっきから何度も呼びかけるも反応が無い
何とか近づきシュウの身体を調べる

「………っ!く…くそ!……すまない…」

シュウは脚だけでなく胸に大きな風穴が開いていた 一目で即死だと解る

生きて帰す事が出来なかった事を悔やんだ

「…!」

いつの間にか人影があった
すぐ後ろに誰かが居る 振り返って見ると…

「………え?」

そこには死んだ筈のシュウが立っていた

「アンタ…生きて……いや…誰…?」

「僕はシュウですよぉ〜…姉御ぉ…」

「嘘よ!ならこのシュウの遺体は何だって言うのよ!?」

「何を言ってるんですかぁ姉御ぉ…ソレはもうゴミでしょう?」

カラカラと笑った後シュウは銃を構え ルゥの頭を撃ち抜いた



___残念だったね……私に会った時点で君達の運命は決まっていたんだよ___



その後二人の故郷に死体が届けられた
禁域に入った者の末路がどうなるのかをその世界に知らしめる為に










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あとがき

第五話終了 今回は何だか番外編のようなモノでしたね〜

それにしても死体を届けるなんてロキちゃんすっげぇ悪趣味ですね〜w

今回は二人のトレジャーハンターさんがメインでしたね

そんな二人の情報は登場人物一覧に書いておくのでそっち見てね

何故こんな内容になったのかは単に牢姫が何かの準備をしているという事を伝えたかったからですね
しかも普通の手段じゃ到達できない比較的安全な場所でってのを強調したかった 伝わったかな?

さて…次話はまた禍たん視点に戻るかと思います もしかしたら戻らないかもしれませんw

それにしても二人は中々にかませになりましたね〜
これじゃ牢姫がどれだけ強いか全然わかんないじゃないか!もっと頑張れよ!

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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