東方輪廻殺
第六話 死別

「はぁ〜…予想してたけど…やっぱり辛いものね…」

やや暗くなり始めた人里を適当に彷徨い霊禍は呟く

「今日は何処で寝ようかな…成り行きとは言え人里まで来たし…此処に住みたいな…」

陸豪からはあの山小屋は好きにして良いと言われたが
わざわざ危険なあの山へは戻る気にはなれなかった

とりあえず食糧を買おうと店を探す

「あ…あれかな?…すみませーん!」

店に入り店員を呼ぶ

「はいはーい!いらっしゃいませ!何をお求めで?」

店の奥から元気そうな女の人が出てくる

「えっと…コレとコレと…コレ下さい」

私は調理する必要の無い果物や野菜を指し求める

「はいはい…お姉さん見かけない顔だね〜…何時此処に来たの?」

店員は袋に詰めつつ何処から来たのか聞いてくる

「え?え〜っと…今日此処に…」

まだこの世界に来てから一晩も経っていないから間違いないはず
霊禍はそう判断し答える

「へぇ〜?じゃあこの里の事何にもわからないでしょ?お金あるの?」

「あ…お金は…これで良いですか?」

私は砂金を差し出す
中を確認して店員は驚愕した

「ちょっ!?これが代金かい?多すぎるよ!」
「う〜ん…ちょっと待ってね」

店員はそう言ってもう一つ小さな袋を出し 少量の砂金をその袋に入れる
そして求めた果物と野菜を次から次へと袋に入れ始める

「………多すぎない?」

私は店員に聞く
そんなに求めた憶えは無い

「等価交換だよ 砂金は希少だからね〜 あの量でこれくらいは買えちゃうのさ」

一つの袋に入りきらなくなり二つ目の袋にまた果物と野菜をポンポンと入れる
頼んでもいない物まで入れるのはどうなんだろうか…

「これくらいかな〜…これで良い?」
「もし多すぎるってんなら求めた分だけにするけど…それじゃ私が何か儲かって悪いしねぇ」

「いえ…それで良いです これなら食べ物にしばらく困らない…かな?ありがとうございます」

「毎度あり〜」

私は大量の食糧が入った二つの袋を手に取りお礼を行って店を出た



「ここらへんで良いか…」

里を歩いていると人気が少なく 比較的安全そうな場所を見つけた
此処なら勝手に寝ても誰も迷惑しないだろう

すっかり夜になり 辺りは静まり返っている
これ以上動いても何も得られないだろうと判断し此処で一晩過ごす事にした

「………何か毛布とかそういうの買えば良かったかな」

食糧をポリポリと食べつつ一人呟く
そしてゆっくりと夜明けを待った










「鉄…一応念の為陰陽師ン所行って来い」

陸豪は鉄に指示を出す

「何でだよ?」

「霊禍ちゃんの邪気を祓う為だ 大丈夫だと思うが蝕まれていたらそれだけ早死にするぞ」

命は大事だぞと親父が言う
いくら嫌いな奴とは言え背に腹は代えられないという事だろう
あの陰陽師に頼るのは癪だと…そんな表情をしていた

「…親父は行かねぇのか?」

鉄が問う
少し関わっただけで邪気に蝕まれるというなら親父だって例外では無い筈だ

「俺よりお前の方が多く関わっただろう?山から霊禍ちゃん抱えて帰ったんだしよ」
「ま、俺の心配するのは良いがお前自身の心配をするんだな」

そう言ってガハハと豪快に笑う陸豪

「早く行け 夜ならあの陰陽師も流石に帰ってる筈だ」

その言葉と同時に半ば強制的に家を追い出された



「チッ…親父の野郎…」

陰陽師の所へ向かいつつ一人文句を言う

しばらく歩いていると霊禍を見つけた

「…お前…ここで寝る気か?」

思わず話かける その声を聞き霊禍も鉄の存在に気づく

「鉄…さん?…え、えぇ…今日は此処で一晩過ごそうかと思って…」

霊禍は有り余った食糧をじっくり味わいつつ答えた

「その食い物は?買ったのか?」

普通じゃない量の食糧を見て呆れたように聞く

「うん 少しの砂金でこんなに貰っちゃった」

ホントはこんなに買えるとは思っていなかったけど___と若干嬉しそうに霊禍は答える

「鉄さんはどうして此処に?」

ふと霊禍が聞いてくる

「俺か?俺は__」

邪気を祓いに陰陽師の所へ  とそう言いかけたが止めた
邪気云々を話す事は遠まわしに霊禍を非難する事になるのではと思ったのだ
そもそも邪気があるなどとは親父である陸豪しか発言してない
始めて邪気が見えると言ったあの時俺だけでなく霊禍本人も驚いていた
もしかしたら親父の戯言かもしれない いや…きっとそうなんだろう
冗談が過ぎるぜ 後味悪い昔話なんかもしやがって 後で文句を言ってやろう

「………鉄さん?」

急に黙り込んだ鉄を心配し恐る恐る話しかける

「ん?……あぁ悪い…何でもねぇよ  此処に来たのはお前が心配だったからな」

咄嗟に嘘を吐く とは言え心配だったのは本当だ

「そう?……ありがと…」

それを聞いて恥ずかしそうに下を向き果物を食べる霊禍

「………何なら夜明けまで一緒に居てやろうか?一人じゃ寂しいだろ?」
「俺が番をしてやるよ その食い物も盗まれねぇしお前も安心して寝れるんじゃねぇか?」

一晩くらい徹夜するのは平気だし
何より放っておけなかったからついついこんな事を口走ってしまった

「ホント?でも悪いよ…そこまで迷惑はかけられないよ…」

そこまでする必要は無いと霊禍はやんわりと拒否した
しかしチラチラとこちらを伺うあたり本心では一緒に居て欲しいんだろう

「気にするなって 此処でお前を放っておいたら俺が気にするからな」
「要するに俺のおせっかいだ 迷惑かもしんねぇが受けてくれや」

「え…?わ、わかった…そういう事なら…」

そう言って半ば無理矢理一緒に過ごす事になった





「それで親父があちこちに乱射してよ〜大変だったぜホント」

人里の事や自身が体験した過去話等をし
雑談で暇を潰ししながら夜明けを待つ

「そんで危ねぇから一斉に押さえつけられてさ」
「そしたら親父惨めにも『俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇ!』って叫ぶんだぜ 滑稽だよなw」

「アハハハ!それでどうなったの?」

「長老が出てきて言ったのさ『お前さんのお陰で風通しが良くなったが今度は寒いのう』てな」
「それを聞いて『申し訳ありませんでしたー!』ってジャンピング土下座してたなぁ…」

あんなアホな事をする奴が居るとはなぁ__と鉄は懐かしむ
ふと霊禍を見ると結構眠そうだった

「…眠いのか?寝て良いんだぜ?」

「ん…折角お話してくれるんだから聞かなきゃ損でしょ?」

「無理すんなよ…もう寝な 起きたらまた別の話してやるから」

そう言って寝るように促す

「ホント?約束だよ?………それじゃ寝るね おやすみ」

「あぁ…おやすみ」

「………ありがと」

そう小さく呟いて霊禍は眠りについた















「………嘘よ」

夜が明けて 霊禍は起きた
鉄はすっかり眠っていた  が
普通に寝ているのではなく吐血で服が汚れており一目で異常だと気づいた

「起きて……ねぇ…鉄さん…朝だよ……起きてよ…」

しかしいくら揺すっても起きる気配が無い

「ねぇ起きて…話を聞かせてよ…」

先程より強く揺するも反応が無い

「起きて……話を聞かせてよ…約束したでしょ……お願いだから……」
「起きて…起きてよぅ……うっ……起きてぇ……」

泣きつつも鉄を起こす しかし一向に目を覚ます気配は無い

「嫌……お願い……起きて……ぐすっ……起きて……起きてよぅ…」

きっと何かの持病で衰弱してるんだ 回復すればすぐにでも目を覚ます
そう信じて起こすのを止めない しかし変わらず反応は無く
段々と揺する力も無くなっていった

「うぅっ……私…陸豪さんの所に行ってくるね…できれば戻ってくるまでに目を覚ましてね…?」

鉄にそう伝え 走るように陸豪の元へと向かった


5分も経たない内に戻ってきたが鉄は変わらず眠ったままだった
それを見た陸豪は静かに鉄に近づく

「………おい鉄 何こんな所で寝てやがるんだ?全然帰って来ねぇと思ったら何野宿してやがる」

鉄に反応は無い

「俺の言いつけを守らずこっそりとデートたぁ良い度胸してるじゃねぇか?なぁ!鉄!」

鉄に反応は無い

「………俺は言ったはずだよなぁ?異形に関われば苦しむって言ったよなぁ?」

鉄に反応は無い

「こうも言ったぜ?邪気に蝕まれていればそれだけ早死にするぞってな…聞いてるのか鉄?」

鉄に反応は無い

「………………バカ息子がっ!俺より先に死ぬとは親不孝にも程がある!」

鉄にキレて怒鳴る陸豪を申し訳無さそうにその様子を見る霊禍
そしていつの間にか人が集まっている

「陸豪さん…」

「悪いが…もう出て行ってくれ…俺ん家だけじゃねぇ…この人里からだ」

陸豪が霊禍を睨み言う その眼光に思わず引いてしまう
そして割り込むように別の声が聞こえた

「出て行く必要は無い…小娘 貴様は此処で退治する」

一人の男が出てきた言った 姿からして陰陽師あたりだろう

「ふんっ!よくもまぁ上手く化けたものだな妖…まるで人だな 本性を現せぃ!」

突如結界を張り私を縛る そして兵らしき者達がこちらに筒状のモノを構える

「うぐっ……はっ……あぁぁっ!!」

全身が押し付けられるような感覚に襲われる
まるで上下左右、前後から押しつぶされるような感じだ 苦しい

「放て!」

陰陽師が兵に合図を出し 乾いた音と激痛と共に私の意識は途絶えた










「陸豪、災難だったな」

陰陽師が心配そうに話しかける

「あぁ………だが、大事なモンを失っちまった…」

陸豪は鉄の遺体を見てそう呟く

「バカ息子が…だから早く陰陽師の所へ行けと言ったんだ…」

「陸豪 私に用があったのか?」

「あぁ…霊禍ちゃ……そこの嬢ちゃんの邪気に蝕まれてるかもしれねぇから祓ってもらおうとな」

「…詳しく聞かせてもらおうか?」

「あぁ…わかったよ…」

今度は霊禍の遺体を見ながら陰陽師に事情を話した

「ふむ……陸豪…残念ながらこの邪気は俺ではどうしようもできない」

陰陽師が落ち込みつつ話す 自分では祓えないと力不足を呪うように言った

「そして陸豪…お前の身体にも邪気が渦巻いている…」

「…俺も関わりすぎちまったって事かい」

やれやれと変なジェスチャーをする陸豪

「すまない…俺にもっと力があればお前を救ってやれたのに…」

悔しそうに謝罪する陰陽師

「………先は長くないのか?」

「良くて1週間と言ったところだな…すまない」

「いや…良い…」

「そうか…すまないな……この小娘の処理は私がするが…息子はどうする?」

「俺が引き取る…片づけが終わったら来てくれ」
「まずは嬢ちゃんの遺体からだ 邪気が出てるんだろう?」

陸豪はそう答え鉄の遺体を抱える

「わかった…後で参ろう しかし…遺体であってもまだ邪気を放ち続けるとはな…」

「気をつけろよ?この里に陰陽師はお前しか居ないんだからな」

「言われなくともわかっとる それじゃ…後でな…陸豪」





鉄を抱えて帰宅する
そして鉄の部屋に遺体を寝かせた
壁にもたれるように陸豪は座る

「………結局最初から最後まで俺は異形に関わっちまう人生だったな…」

鉄に話しかけるように陸豪は呟く

「せめてお前だけは…俺より幸せに生きて欲しかったぜ…鉄」

そう言って煙草を取り出し吸い始める

「ふぅ〜………懐かしいなこの味…お前が生まれて20年以上も止めたモノだがもう良いよな…」


ドクン


急に苦痛が走る

「ぐっ!?ふ…ふはは…どうやらもうすぐお前の所に行けそうだぜ…鉄」

ドクン

じわじわと胸の奥から苦痛が広がる

「甘く見てたなぁ…確かにこれ程の邪気ならあいつじゃ無理だわ」

ドクン ドクン ドクン

自分の心音がやけに大きく聞こえる

ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン

どんどん大きくなる心音と苦痛に耐えつつ煙草を灰皿に押し付け火を消す

「ふぅ〜………さてと…それじゃ鉄…今から行くからな…たっぷり説教してやるから覚悟しろよ」

そして陸豪は静かに目を閉じ 永遠の眠りについた










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あとがき

第六話終了 どうでしたか?

早くもこの世界は終了しました まぁチュートリアル的な世界でしたしねぇw
全然そんな要素は無かったけどな!

ともかくまた別の世界へ飛ぶことになります 次の世界はどうなるんでしょうね〜

今回のポイントはやはり禍たんの邪気ですね
本人の意識に関係なく害を及ぼし死に至る程凶悪だというのがわかったでしょうか?

人は異端を嫌う傾向がありますが害あるものは駆逐する傾向があります
多分人でなくとも害敵は駆逐されるものかと
異端であり害である禍たんはトコトン差別される体質と言えるでしょう
人妖問わず嫌われる傾向にあるという事ですね
そして鉄のように友好的な存在に対しては禍たんの意思に関係なく邪気で殺してしまいます
結果禍たんを嫌う存在しか残らないというわけですね
この哀しい悪循環を止める事はできるのでしょうか?

これからどうしましょうかねぇ…w この課題は相当でかいぞぉ 能力の問題も未解決だし

とりあえずロキちゃんに何とかしてもらおう うんそうしよう
多分一旦神社に戻ると思う 戻らないかもしれない…ロキちゃん今忙しいし…w
もうどうにでもな〜れ

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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