東方輪廻殺
第九話 師匠

「…やっぱり居ないわねぇ」

紫は途方に暮れていた
霊禍が持つ特有の邪気を探したのだが全然見つからないのだ

「…騙されたのかしら?」

しかし世界を渡るのは大きく力を消耗する
それにまだ隅々まで探し回ったわけではない 諦めるにはまだ早かった

「もう少し探してそれでも手がかり無しなら再度あの神社に行きましょう」

そう決め霊禍の邪気を探った




「ん?微弱だけど…あの子の邪気…」

ようやく手がかりを見つけた
早速その邪気が出ている場所へ向かう

広い草原に一人の男が居た 他には誰も居ない
全体的に黒い服を着ている若い男だ
その男から霊禍の邪気が出ている

(どういう事かしら?どう見てもあの子では無いし…でもあの邪気は…)

紫はじっくりとその男の様子を見る
男は瞑想中のようで石の上から全く動かない

(仕方ないわね…直接聞いてみましょう)

そう思い思い切って聞く事にした紫はスキマから男の前へ現れる

「こんにちは ちょっと尋ねたい事があるんだけど良いかしら?」

「………」

男は突然紫が現れた事など気にも留めずじっと紫を見る

「人を探してるの この子なんだけど…知らないかしら?」

紫は写真を男に見せる 男は静かに写真を受け取りじっと写真の霊禍を見つめる
そしてしばらくして紫に写真を返しゆっくりと口を開いた

「貴女に教える必要はありません」

「あら?どうしてかしら?」

「それも言う必要はありません」

どうやら何かを知っているようだ
ようやく見つけた手がかり…何としても聞き出してやる

「そう…なら実力行使でいこうかしら?」

紫は若干妖力を解放し睨みつける
しかし男は涼しげに答えた

「できるものならどうぞ」

その瞬間男が座っていた石が砕ける しかし男は既に居なかった

「……な?ガッ!?」

急に背後から激痛が走り吹っ飛ばされる
先程の男がそこに立っていた

「チッ…」

紫は舌打ちしスキマを使って地面激突のダメージを回避する
男はその様子を静かにじっと見ていた

(参ったわね…私が何の反応も出来ない速度で動けるなんて…人間かしら?)

今まで凄まじい速度で動き回る敵とは何度も戦った事がある
しかしそのどれもが十分反応できる速度だったがこの男は違った

(悪いけど…不意打ちさせてもらうわよ)

そう思い男の死角から弾幕を放つ
しかし男は既に安全地帯に避難していた

「随分と速いのね」

紫は男と十分距離が離れた位置にスキマから出て言い放つ

「貴方の正体を教えてもらえないかしら?」

「私の名は『幽玄』…人間です 貴女は?」

答えてくれないかと思ってたがあっさりと答えてくれた

「私は八雲 紫 見ての通り妖怪よ……貴方本当に人間なの?」

と質問と同時に死角から弾幕を放つ
しかしことごとく避けられ十分な間合いを取っていた筈なのに反撃を食らった
あまりの激痛に血反吐を吐く
何故妖怪の私に掌低一発でここまで大ダメージを与えられるのか…?

「当然…私は人間ですよ?」

紫を吹っ飛ばした後幽玄は答える

「うっ!?ぐっ…」

再度激突のダメージを避けようとスキマを開こうとするが何故か開かず地面に激突
そして反撃しようと弾幕を張ろうとするが激痛が走り弾を撃てなかった

「無駄です…先程の一撃で氣の流れを大きく狂わせました 弾やその妙な能力は使えない筈です」

幽玄が静かに近づきつつ言う

「………だからと言ってまだ負けたわけじゃ無いわ」

確かに弾やスキマは開けないがそれだけだ もう容赦はしない
可能な限り高速で動いて幽玄に攻撃を仕掛ける この速度なら人間は反応できない筈だ

しかし幽玄は紫の攻撃を避けその度にカウンターを入れてきた ありえない…
おまけに一撃一撃が異様に重く早くも満身創痍になってしまった

「はぁっ…はぁっ……あ、貴方…化け物!?」
「…どうして死角からの攻撃や私の速度についていけるの!?絶対に目で追える筈が無い!」

ガクガクと膝を震わせ何とか立っているがもはや限界だ
スキマで逃げようにも奴の攻撃の効果なのか未だに使えない状態だ

「…生き物の身体とはよく出来ています」
「肌で大気の動きを感じ脚で大地の震動を捉え音とにおいで気配を感じれば大抵の動きは補足できます」
「さらに生き物特有の力を感じその流れに触れれば貴女の様な特殊能力者相手でも戦えます」
「視覚はおまけのようなものですよ…殆どの生物はそれに頼りすぎるが故に騙されるのです」

「貴方…やっぱり化け物だわ…」

もうわかった…この男は人間と称しているがもはや生物の境地に立っている化け物だ
油断した…逃げられるだろうか?

力を振り絞り全速力で逃走する

「フッ…!」

だがそれも虚しく幽玄の攻撃が襲い掛かる

(グッ!?逃げる事もできないと言うの!?)
「貴方が…私を補足……できたとしても……どうして…追いつけるのかしら?」

いくら疲弊しているからと言っても私は人間の身体能力を大きく上回っている筈
なのに何故こいつはこうも容易く追いつけるのだろうか?

「簡単です 修行すればいくらでも動きは速くなれます」

いくらでもっていうなら音速や光速はどうなんだ?
と皮肉を言いたいがこのダメージでそんな余裕は無かった
先程の攻撃でついに立つ事が出来なくなったのだ

「はぁっ…はぁっ…!この…この私が…この程度の攻撃で…立てないなんて…!」

「それはそうでしょう 私の攻撃は命中する度にその者の氣を狂わせます」
「正直ここまで私の攻撃を食らってなお生きている貴女にこそ驚きを隠せませんよ」
「よくぞ今まで急所を避け続けましたね…今、止めを刺してあげます」

幽玄が紫の真正面に立ち構える

「くっ…!藍!」

式神の名を叫ぶと同時に何処からともなく藍が現れ素早く幽玄を牽制する
牽制と言ってもその攻撃どれもが必殺の攻撃となる代物だ
しかし藍の攻撃は幽玄には当たらなかった

「紫様!ご無事で!?」

できれば仕留めて欲しかったがそれは贅沢だ
ひとまず幽玄との距離を取れたことを良しとしよう

「ありがとう…私が能力を発動できるようになるまで時間稼ぎを頼めるかしら?」

「了解!」

藍は特に何も質問はせず 妖術によって草原を燃やし 紫を抱えて飛んだ

(満身創痍の中私を呼んだんだ…質問する暇は無いほどあの男は強いという事になる)

藍はそう思いすぐに紫の安全確保の為に人気の無い所へ降りる

「紫様 ここでなら…休めそうです」

休むのに丁度良い洞穴を見つけた そこへ入り紫を休ませる

「ありがとう…藍 念の為……入り口に結界を…張っておきなさい」

「了解しました」

言われてすぐに結界を張り 紫を見守りつつ敵が来ないか警戒する

「…質問してもよろしいですか?紫様」

「簡潔に頼むわ…」

紫は苦しそうに答える

「あの男は何者で?」

「自称人間の幽玄よ 霊禍の邪気を感じたから訪ねたの」

「紫様をそこまで追い詰めて…人間?」

藍は信じられなかった 弾幕ごっこならいざ知れず
殺し合いであの八雲紫が一方的にやられたのだ
人間どころか大妖怪や神ですらここまで一方的になる筈は無い…そう思っていた

(だが…私の攻撃を全て容易く避けた…ただ者じゃないのは確かだ…)

人間があそこまで強くなれるものなのか?藍だけでなく紫も疑問だった
そう思っている内に声が聞こえた

「いけませんね…自然を無闇に破壊してはダメですよ?」

そこで入り口にあの男が立っていた 傷一つ…汚れ一つ付いていない
やはりあの術で焼け死んだわけでは無かった
そして幽玄は入り口の結界を難なく解除する
藍は驚きを隠せなかった あれはそう簡単には解けない結界の筈なのに!?

「貴様!紫様には触れさせぬ!」

意気激昂して男に挑む

「…!ダメよ!藍!貴女じゃそいつに勝てないわ!戻ってきなさい!」

しかし紫の叫びは藍には届かなかった



「はぁっ!」

弾をありったけ撃ちつけるが全く当たらない…避けるスペースは無いはずなのに何故!?
それだけじゃない…様々な妖術も駆使しているが一切当たらず幻術も効果が無いようだ…

「………」

幽玄は藍の様子を静かに見ているだけだ
流石に飛行している藍には攻撃できないのか攻撃を避けているだけで済んでいる

藍は引き続き攻撃を続けるがやはり全く効果が無く幽玄には当たらなかった

「な…何故当たらないんだ!?」

「簡単です 避けられるから避けてるだけですよ」

幽玄が全然答えになってない事をさも当然のように言う

「貴様!ナメてるのか!?」

「私は何時だって本気です 降りてこないというならこちらにも考えがあります」

「何?…グァッ!?」

急に腹に激痛が走る 何をされたんだ!?そんな思考で一杯だった

「貴様…何をした?」

「ただ小石を投げただけですよ?」

ありえない そう思わずにはいられなかった
まず投げた動作が全く無かった いくらなんでも動作無しで物を投げれるわけが無い
次に今私はそれなりの高度で飛んでいる なのにも関わらず反応できなかったのだ
私は銃弾くらいなら余裕で避けられる しかしこいつが投げた小石の速度は
銃弾なんか比にならないくらい速い そんな速度で物を投げるのは人間には不可能だ!

「化け物め…」

「失礼ですね…私からすれば貴女方も化け物ですよ」

そう言ってまた激痛が走る 今度は肩だ

「う〜ん…思ったより狙いがうまくいきませんね…修行が足りない証拠か…」

そう言って男は幾つか小石を拾いまた空に居る私と対峙する
今度は頬を掠った 相変わらず弾は見えない
まさかこいつ…さっきから頭を狙っているのか!?
腹と肩に命中した弾は全て貫通している 頭に食らったら間違いなく…死ぬ!

「もう好きにはさせん!」

弾幕を張りながら急降下し限界ギリギリの速度で奇襲を掛ける

(奴はまだ上を向いている!もらった…!)

しかし攻撃は外れ 見事にカウンターを貰ってしまった

「ガッ…ハァッ…!?」

「今の一撃で貴女の氣の流れを狂わせました もう弾を撃てないし飛行もできませんよ?」

身体を巡る妖力の制御が効かない…!紫様はこの状態で戦っていたのか…
とてもじゃないが立っているだけでも限界だ…!

「藍!退くわよ!」

突如背後からスキマが開き 藍はスキマの中へ半ば無理矢理引きずり込まれた

「良かった…貴女が生きていて…無茶しないで」

「申し…訳…ガハッ!………ございません…」

そして紫と藍はスキマの中へ消えていった

「はぁ…それにしても…あんな化け物が居るとはね…」

折角の手がかりだが…あれじゃ手に負えない…とても情報を引き出すことは出来なさそうだ

「しばらくは回復に専念するしか無いわね」

受けたダメージがあまりにも大きすぎた これじゃ世界を渡る事もできない
紫と藍はしばらくスキマの中で休む事になった









「逃げられましたか…」

幽玄は空を見上げ残念そうに呟く

「しかし…彼女が狙われているとは…」
「彼女は死んでもなお…疎まれているのですね…」

そう独り言を言いその場から立ち去ろうとするが
幽玄は新たな気配を感じ振り返る
そこには男が立っていた かなり大柄で髪がやや長い

「………」

幽玄は黙ってその者の様子を見る

「そう警戒するな兄ちゃん 話があって来たんだ 時間良いかな?」

「………えぇ、構いませんよ…私の名は『幽玄』…人間です 貴方は?」

「俺は『クリェドゥス』って言うんだ 種族は魔人! まぁよろしくな兄ちゃん」

クリェドゥスはにっこりと笑い答えた



「それで話とは?」

幽玄がクリェドゥスに問う

「せっかちだな…まぁ良い…兄ちゃんからあの娘の気配を感じてな…気になっただけだよ」

クリェドゥスがカラカラと笑いながら話を始める

「幽玄さん アンタ呪いを受けているだろう?」

「答える必要はありません」

「ハッハッハ…まぁ解ってる事をわざわざ言ってもらう必要は無いさ」
「聞きたいのはな…その呪いを掛けた人物をどう思ってるかなんだ…答えてくれるか?」

「答える必要はありません」

幽玄が先程と同様に回答を拒否する

「ハハハ…だが…答えてもらう必要がある」

クリェドゥスがカラカラと笑い言う その目は真剣だった

「何故です?」

「その呪いを掛けた人物が救われるか否かが決まるからだ」

「無駄ですよ…私に呪いを掛けた者は死にました」

「ところがどっこい 生きてるんだよ…死んでもあいつは別の世界で蘇える そういう事になってるんだ」

クリェドゥスは幽玄がどう反応するのか楽しそうな目で観察する

「それが真実だとして私に何の関係が?」

「俺はな…もう一度お前とあいつを会わせようと考えてるんだ」

「その必要はありません」

「いいや必要だ…あいつは全てを忘れている この俺の事も憶えていなかった」
「それにあの隙だらけの身のこなし…多分戦い自体も忘れている筈だ」
「だから…前みたいにお前さんが鍛えてやってくれないかなぁ?と思ってるんだ」

「………」

「答えてくれ…今兄ちゃんはあいつの事どう思ってる?」

「確認しますが…"あいつ"というのは誰でしょうか?」

「…この嬢ちゃんだ」

クリェドゥスは写真を取り出し幽玄に見せる

「名前を『霊禍』と言ってな 俺の能力に狂いが無ければお前さんの弟子の筈だ」

「………」

幽玄が苦そうな表情をする

「さぁ答えてくれ…どう思ってるんだ?」

「………今でも…自慢の弟子だったと誇れますよ…」

「そうかそうか」

クリェドゥスは幽玄の答えを聞いて満足そうに笑った
そして今度は急に笑いを止めたかと思うと寂しげな表情で幽玄に問いかける

「嬢ちゃんがこの世界ではどうやって死んだか…教えてくれねぇかね?兄ちゃんの口から聞きたい」

「答える必要はありません」

「それは残念だ」

一瞬の緊迫した空気がクリェドゥスの笑い声によって一気に消えた

「質問しますがもし期待外れの回答をしていた場合貴方はどうするつもりでしたか?」

「それは…残念なだけだな…あんたは結局嬢ちゃんの味方じゃなかったって事になる」

「そうですか…」

二人はそれから互いに黙り 移動を続けた













「私に鍛えて欲しいと…?」

「はい…お願いします!」

霊禍の申し出に幽玄はほとほと困り果てた
元々弟子など作るつもりは無かったのだ

「嫌です」

「な、何で!?」

とりあえず断ってみるもやはり霊禍は納得いかないようだ

「私は元々誰かを鍛えるつもりはありません 自分を鍛えるだけで精一杯です」
「ましてや貴女のような乙女を私の手でその人生を台無しにするわけにはいきません」
「それに貴女は信用できない いきなり現れた上邪気を纏ってるのですからね 妖怪ですか?」
「妖怪ならば私は貴女をどうやっても鍛える事はできません わかりますか?」
「幸いその邪気は私自身で侵食を対処できますが 普通の人なら死にますよ?本当はどうしたいんですか?」
「と…色々と個人的な理由があるのでお受けできません 帰りなさい」

「嫌です 帰りません」

「………」

理由を付けて断ったもののそれでも霊禍は納得いかないようだ
軽くため息を吐く
困っている幽玄を逃がさないように見つめつつ霊禍が話し始める

「私は人間です 突然現れたのは能力で移動したからです 能力は時空間を操る能力です」
「邪気は生まれつき付いているモノです ある程度なら制御できます」
「私を信じてくれなくてもいい…でも…それでも…私を鍛えてくれませんか?」

先程の理由の回答だろう 種族や能力を明かしどうしたいのかも簡潔に話してくれた
それを聞いて幽玄がため息を吐く そしてどこか覚悟を決めたような表情で話し始める

「仕方ありません…テストをしましょう」

「テスト?」

「今から貴女と私が戦い 私に一発でも触れれば鍛えてあげましょう」
「もし一発も触れることが出来なければ貴女の力不足ですので諦めてください」
「制限時間は12時間です いいですね?」

「…わかりました」

「では……いきますよ?」

そしてテスト開始から11時間後 相打ちの攻撃が決まったのだった











「ぐぅっ!?」

霊禍が木に叩きつけられる

「まだまだ隙だらけですね…どうしました?もうダウンですか?」

休んでる霊禍に対して幽玄が挑発する

「まだ…まだぁっ!」

立ち上がり距離を詰める
攻撃を繰り出すも全て防がれる

幽玄も同様に攻撃を繰り出すが
霊禍はしっかりとそれをガードする

(…!そこっ!)

側面へ回り込み蹴りを放つ しかし既にそこに幽玄は居ない

「あっ…!し、しまった…」

直後思いっきり吹っ飛ばされ激突する
そこへ追撃するように幽玄の拳が迫っていた

「……っ!」

思わず目を瞑り痛みを覚悟する
が 痛みは来なかった

「………?」

「終わりです 食事にしましょう」

はぁ〜……これで0勝467敗…
一向に修行で勝てず霊禍は落ち込む

「貴女は弱いですがだからと言って他者を守れぬ程弱くはありません 精進あるのみですよ」

幽玄が励ますように言う…がやっぱり悔しいものは悔しい

「師匠…やっぱり私才能無いのかな…一度たりとも勝てないなんて…」

「何を言ってるんですか?才能なんておまけですよ 貴女の心次第です」

「心…?」

「できると思えば何でもできます 逆にできないと思えば何時まで経ってもできません そういうものです」

「む〜…」

思わず唸る 何でもは流石に言い過ぎじゃないのか?
でも師匠ならマジで何でも出来そうだ…妖怪の大群を素手で壊滅させるし…

「何時まで落ち込んでるんですか…全く…疲れてるのなら私が料理しましょう」

「いやいやいや!大丈夫です!だから師匠もゆっくり休んで下さい!」

師匠は化け物染みた強さしてるし大抵の事は何でもできるのだが
何故か料理だけは壊滅的に下手だった これさえ無ければなぁ…
世の中完璧超人ってのは居ないものなんだね!師匠!

「何ですか?その目は」

「何で料理できないのかなぁ?って思って」

「失礼な!ちゃんとできてるでしょう?」

「あんなもの食べて死なないし味がおかしいと思わない師匠は異常ですよ」

「私は毒物は作りませんよ それに貴女だって食べたけど死ななかったじゃないですか」

「殺人的に不味いって言いたいんですよ師匠」















「やった!やった!やったぁぁあああ!!」

私は歓喜する
ようやくあの師匠に1勝できたのだ 嬉しくないわけがない

「そこまで喜ぶ事ですか…」

「当然です!化け物染みた強さを持つ師匠に勝てたんですから!」

「そうですか…では霊禍もこれから化け物の仲間入りですね」

グサァッ! 霊禍は心に1000ポイントのダメージを受けた
ふ、ふん!いいもん!初勝利祝いに何か命令してやるんだから!

「でもそんなにはしゃぐのはどうかと思いますね 私に幾度となく負けてるというのに」

グサグサァッ! 霊禍は心に50000ポイントのダメージを受けた
仕方ないじゃない!むしろ勝てたんだから褒めてよ!

「確か私に負けた回数って…何回でしたっけ?」

ドグシャァッ! 霊禍は心に100万ポイントのダメージを受けた
えぇそうですよね…いちいち数えるわけ無いですよね
戦績は1勝8462312敗ですよ こんちくしょう!

「まぁ負けは負けです…で?何をお願いしたいんですか?」

「料理をもっと上手くなって下さい!お願いしますぅ〜!この通りですぅ〜!!」

私は土下座してお願いした
何故なら負けたらその分だけ師匠のクソ不味い料理を食わされるのだ
師匠曰く怪我に効くらしいがとんでもない 師匠は料理で殺す気だ 絶対そうだ

「そんなに不味いんですか?」

「毎回言ってますが不味すぎます あまりの不味さにそこらの蟲の方が美味く感じちゃう程です」

「なるほど…霊禍はそこらの蟲"も"好みなんですね 今度それらも入れてみましょう」

「それは止めてぇーっ!!」










「師匠…やっぱり化け物でしょ?何で私能力使ってるのに負けるの?」

「霊禍が未熟なだけですよ」

そう言って師匠は平気で心を抉る というか絶対こいつおかしいって!
私の能力はその特性上距離や気配など全く無意味
氣云々は関係無い筈なのに…なのに…

「ガハッ!」

絶賛やられ中です 異空間に逃げようにも掴まれて投げられ
空間転移で奇襲掛けてもカウンター食らって
妖怪達を出しまくって人海戦術とっても即殲滅されます マジ化け物
いくら傷を回復しても即行で満身創痍にされる…もう泣きたい

「私って強くなってるのかなぁ…」

これで27勝21016531敗 もう泣いて良いよね?
師匠は組み手の時手加減として氣を狂わせてこちらの動きを封じようとはしない
つまり一度たりとも全力で試合してはいないのだ 悔しすぎる

「何を言ってるんですか…霊禍はかなり強いですよ 私に幾度と無く勝ってるじゃないですか」

「その何万倍も負けてますけどねー!ふーんだ!」

「やれやれ…では少々休んで下さい 食事を作りますので」

「はぁ〜………」

あれから大分マシになったが…それでも蟲を生で食った方が美味いです…
要するに全然上達してない…マシになったかもって思えるのは慣れちゃったって事なのかな…
慣れたくないよ…慣れたら負けだと思う…うん

「今日こそは上手くいったと思いますよ」

「そのセリフにも聞き飽きましたよ師匠」

結果は言うまでも無い










「ふっ…!よし!」

今回は久々に勝てた これで243勝35220407敗

「お見事です」

…苦労して勝ったのに涼しげに立ち上がる師匠 もっと苦しそうにして下さいよ…

「そろそろ霊禍も私の下を離れる時が来たようですね…」

「え?」

寝耳に水な事を言われ反論する

「どうしてですか!私はまだ満足していない!それに…もっと一緒に居たいです…」

「貴女はもう一人でやっていけますよ 私との修行で得た力を使って貴女の求める世界を探しなさい」

「そんな…師匠はもう…私と居たくないって事ですか!?」

私は焦った 別れたくない…
今まで一番長く一緒に居てくれたんだ これからも一緒に居てくれないと嫌だ
それに師匠以外の人は未だに私を避けている 受け入れてもらえる筈が無い

「私に依存するのはいけません 貴女にとって私は踏み台であるべきなのです」
「私も貴女に依存するつもりはありません それに永遠の別れではありませんよ?」

「でも…」

「………わかりました なら貴女は私を呪いなさい」

「え?」

またも予想外の事を言われ戸惑う

「真に永遠の別れにならぬよう呪うのです 私がどうなっても貴女と再会できるようにね」

そう言って滅多に見せない笑顔を見せてくれた

「う、うん…解った……何度でも師匠に会えるよう…呪ってあげる…」

「それは困りましたね 今でも信用できない貴女と何度も会ってしまうとは」

「し、師匠ぉ〜………いじわる…」

そうやって師匠は私の呪いを受け 不老不死となった










「うぅ………ぐっ……」

師匠と別れてから2年
私は瀕死の重傷を負っていた

世界各地を回り 私の安住の住処となる場所を探したが
精々もって1週間 早ければ半日で追いやられた
妖怪退治をすれば素手で倒すほどの化け物だと危険視され追放され
だからと言って退治はせず人助けをすれば奇妙な術(能力)で異形扱いされる
妖怪に加担すれば人間という事で常に襲われる
神に助けを請えば制御できているのに邪気の所為で相手にされないどころか攻撃される


もう沢山だ


「最後に…師匠に……会いたい……」

そう思って何日も飲まず喰わずで唯一この世界で自分を認めてくれた師匠を探し回っていた
結局最後まで信じてるとは言われて無いが私は…師匠を信じている
何だかんだであそこまで私の我侭に付き合ってくれたのだ この世界で信用できるのはもはや師匠だけだ
師匠は…私を認めてくれてたのかな?いつもそっけない態度だったからどうでも良いと思われてるのかな…
…認めてくれてたら…良いな…

「あっ……」

脚に力が入らず転ぶ もう力が入らない…

「ここまで…か…」

腕にも力が入らず立ち上がれない
此処は山奥 誰も通らない…夜なので尚更助けなぞ来ないだろう

「うぅ……うっ……結局……ダメだった……うぅ〜〜〜……!!」

私の心を映すようにに雨が降る
衰弱した身体をより疲弊させるかのように情け容赦なく雨は降り注ぐ

ザッ

何かが来た 私のにおいを辿って獣が食べに来たのだろうか…
私はこの世界では餌だった…はは…なんて嫌な人生……

ザッ ザッ ザッ

どんどん近づいてくる こんな土砂降りの中餌を探すなんてご苦労様
食べ物見つかって良かったね?獣さん

そう思い最後にどんな奴が私を食らうのか頭を上げて見渡す
思いもよらぬ人物を見つけ私は目を見開き喜んだ

「………霊禍 こんな所で寝ていると風邪をひきますよ」

最後に…会えた…
嬉しさで気が抜けて そこで意識は途絶えた













幽玄が霊禍の遺体を見つけたのは霊禍の死のさらに4年後であり
遺体は邪気の所為かまだ僅かに残っていたが殆ど食い荒らされていた
だが食い荒らされているのにも関わらずソレが誰だったかは解る 頭がしっかりと残っているからだ

幽玄はかつての弟子だったモノを見て少し残念そうな表情を浮かべた後静かに立ち去った














「………」

幽玄が黙って山道を歩く
それに続くようにクリェドゥスも歩く

「どうした兄ちゃん…何か思い出したのか?」

「えぇ…我が弟子の事をね」

「連れてきた時は…精々世話してやるんだな」

「ふふ…今度はどれだけ負かせられるか楽しみですよ」

「怖いお師匠さんだねぇ…」

「ですが…再度会えるなら今度こそ死なせるわけにはいきません」

「優しいお師匠さんだねぇ…」

カラカラとクリェドゥスは笑う

それにつられて幽玄も僅かに微笑んだ










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あとがき

第九話終了 今回は過去話でした どうでした?

かつて禍たんにも師匠なる存在が居たわけですね
もうそれはそれは凄い奴だったわけですよ!多分
禍たんが挫けぬ心を持ってたのは全部こいつのお陰だったんですね
師匠と始めて会った世界では過去話として一気に流しました その方がジーンときそうだったんでw
この世界の禍たんは最後の最後に会いたかった人に会えたから少しは報われたんじゃないでしょうか
まぁそれは幻覚だったんですけどね…実際には最後の最後まで会えてません 残念…

また師匠は霊禍にとってそこらの有象無象よりよっぽど大きな存在でした
一番付き合いが長かった人物ですからね…後に牢姫と会った時にも嬉しそうに師匠の事を話したんでしょう
だから第三話で牢姫は禍たんが嬉しそうに話した化け物師匠の世界にゆかりんを送ったわけですね
ゆかりんは別の意味でその世界を堪能できたと言えるでしょうw

そしてクリェドゥスのジジイが動く事でこの師匠も今後の出番が約束されました
いつかこの師匠の化け物っぷりを書きたいですね

さ〜て…次はどうしようかな…まぁ書きながら考えます いつもの事ですね

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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