東方輪廻殺
第十三話 崩壊

「素晴らしい…これほどまでとは…」

映像を見ながら一体の竜鬼族__ビムクが呟く
見ている映像は霊禍が闘技場で夜魔族,屍狗族と殺し合いをしている映像だ

「どうだ?ビムク」

「ハーズか?いやはやあの人間は実に強い能力を持っている」
「あの厄介な屍狗族を何の苦も無く消し去っているからな 素晴らしい…」
「他にも色々実験してみたがどれもが期待以上の成果を出したぞ」

ハーズの問いにビムクは嬉しそうに語る

「してハーズよ…命令は聞くのか?」

「今の所は従順だ 監視で動けないからだと思うが…」

「テストしてみないか?あの人間をクヌムホーローへ送り込むのだ」

「…?何をテストするんだ?」

「我々の直接監視下に居ない状況でも命令をこなすかだ」
「何心配するな…3日前ついに首輪が出来たからな 反抗しても対処できるぞ」
「どうだ?やってみないか?」

「…詳しく聞こう」

「良いだろう…まぁ座りたまえ」
「まずあの人間に首輪を付けさせる この首輪だ」

そう言ってビムクは銀色の首輪をテーブルの上に置きハーズに見せる

「この首輪にはカメラやマイク等が付いている 装備者の行動は筒抜けというわけだ」
「さらに裏切った場合すぐ始末できるように爆弾を仕込んである」
「あの人間は生きる為にここまでやってきた…だから爆死したくなければ命令は聞くと思うぞ」

「ふむ…なるほど…」

ハーズは首輪を軽く調べつつ唸る

「そして首輪をつけたあの人間をクヌムホーローへ送り込み其処を壊滅させるのだ」
「我々はあそこには用が無いから無くなっても平気だ」

「なるほどな…」

ハーズは考える
水の双璧[クヌムホーロー]には人間を主に三種族より弱い種族が多く住む
隠れて戦争の準備をしているかもしれない
そういう不安要素は早めに摘み取ってやればクヌムホーローに住む全てを危惧する事は無くなる
王に報告してみるべきかもしれない

「よし…王に話してみよう そして首輪だけではカメラが機能しにくいから別のモノも用意しておけ」

「了解 では早速作業に入ろう」





「……はぁ………はぁ……」

今日の体罰が終わり与えられる仕事を待つ
しかし今日は違った

珍しくハーズが来たのだ
私が着ていた巫女服を渡される

「明日に特別な仕事を与える それを成すためにお前の服を修繕・洗濯しておけ」

「わかりました」

何の仕事かはわからないが私に質問権など無い 大人しく従い修繕を開始する

「修繕・洗濯が終わったらいつもの闘技場へ行くように」

そう言ってハーズは去って行った




闘技場
もはや此処へ来るのには慣れた
そして此処でやる事にも慣れてしまった
今回はどのようにして始末しようか…

色々試行錯誤し攻撃手段も結構増えた
主に弾を放つがこの弾に変化を加え改良に成功したのだ
追尾弾や散弾を放つ事ができる 勿論それ以外にも色々出来た
意識次第でいくらでも可能性が増えると思う
壁の方も初期の頃とは比べ物にならないほど早く展開出来るようになった
なお魔物達の召喚は竜鬼族達から禁止されている その為召喚に関しては進歩が無かった
飛行に関しては試行する時間が無かったがまぁ飛べなくとも今は問題無い

待機していると檻から屍狗族が解放された しかし今日のは武装されている
今まで武装された屍狗族とは戦わなかった…武装した夜魔族なら始末したが…屍狗族は初めてだな

ビーッと警報音が鳴り響くと同時に屍狗族が襲い掛かる

「爆ぜよ!」

私は即座に屍狗族の周囲をを爆破させる
この爆破は弾の応用で一週間前に試して成功したモノだ
弾と違って爆破点を決めてそこをいきなり爆発させる事ができるので非常に攻撃を当てやすい
当然この爆破も弾や壁同様消滅効果を持っている 襲い掛かってきた屍狗族は既に消滅していた

(これで今日は終わり…)

私は竜鬼族からの命令を待つ
ハーズと…もう一体の竜鬼族が私のもとへとやってくる

「見事だ人間 これにて闘技場の実験は終了とする」
「そしてこれより特別任務を与える ビムクの命令に従え」

ハーズの話が終わるともう一体…ビムクが前に出て私に首輪と仮面を渡す
首輪の方は銀色で機械的…思ったより重い 何か仕込まれているんだろう
仮面の方は特に何の模様も穴も無く特徴らしきものは無かった

「まずはそれらを付けてもらおう」

ビムクが命令してきたので従い装着する 仮面を付けたら何も見えないのではと思ったが
どこかに見えない穴があるのかちゃんと見えた

「では次に牢へ戻り服を着ろ 牢へ戻る途中で一つ確認もする」

「わかりました」

何を確認するのかわからないがまぁそれはすぐにでも解る事
命令に従い服を着る為に牢へ戻る


牢へ戻る途中に首輪から声が聞こえた

<聞こえるか?聞こえていたら返事をしろ>

「聞こえます」

<よし…では命令を出す>
<服を着たら城門を出て飛行船へ乗れ>
<その飛行船で水の双璧[クヌムホーロー]へ向かってもらう>
<お前に与えられた任務はクヌムホーローを滅ぼす事だ>
<尚今回お前は単独行動となるが首輪と仮面にはカメラ、マイク、爆弾を仕込んである>
<よってお前の行動は全て筒抜けだという事をよく覚えておけ>
<お前が少しでも我々に敵対する行動を取ればすぐに爆死してもらう>
<理解できたならすぐに行動を開始しろ また首輪と仮面を外す行為も許されていない>

「了解しました」

命令を受けている間に牢に着いていたので着替えをしつつしっかりと任務内容を覚える
着替えが終わり早速飛行船へと向かう…この服も懐かしいな…
首輪からの案内を受けつつ飛行船へ乗り込んだ
操作方法や目的地の位置も教わりつつクヌムホーローへ向かい飛び立った




<アレがクヌムホーローだ 欠片も残さず滅ぼせ 尚クヌムホーロー崩壊まで召喚を許可する>

「了解しました」

浮き島が視認できるところまで飛行した所で命令が出る 正式に許可された事だ
召喚は今の内にしっかり覚えておきたい あの時は混乱してたからよく覚えていない
壁からの声もあれ以降聞こえてないのでちゃんと出来るか不安だった

港らしき場所を見つけ飛行船を止める

「これより…クヌムホーロー壊滅の任務を開始します…」

私は首輪に話しかけ浮島へ降り立つ

誰かが近づいてきた…見た目からして人間だろう

「な、何者だ!?……人間…か?」

私は無視して壁をその人間の位置に出す 壁に飲み込まれて人間は音も無く消えた
そして私は壁に語りかける

「…我が呼び声に応え…現れ出でよ…」

すると壁は怪しく光り想像通り犬型の魔物が出てきた
召喚も意識で何を出すか選べるのだろうか?飛行型の魔物も出してみよう

「出でよ…」

再度壁に語りかけそれに応えるように壁も光る
今度は飛行型魔物が出てきた やはり意識次第で選べるのだろう
戦闘時では無いからかあの時と違い大人しく地上に立っている

<四足の魔物だけではなかったのか!?>

首輪から驚きの声が上がる そういえば飛行型はあの時には出て居なかった
戦車型と巨人型を出せば脅威と見られ爆死させられるかもしれない これ以上は出さない方が良さそうだ

『命令を…我が主…』

犬型魔物と飛行型魔物がこちらを見て私の命令を待つ

「この島に存在する私以外の生命体を全て始末しろ」

私は命令を下す
だが魔物達はすぐに行動せず質問してきた

『…島は残すのか?』

<し、島を残す必要は無い…徹底的にやれ>

魔物達の質問に答えるかのように首輪が答える 少しばかり動揺しているようだ
しかし魔物達は聞こえてないかのように反応しない 私しか命令を出せないようだ…
そういえば任務はクヌムホーローの壊滅だった なら残す必要は無いか

「…この島を跡形も無く滅ぼしなさい」

『認識した…我が主…』

そう言って飛行型魔物は私を掴み上げ空を飛ぶ

「キャッ!?…ちょ、ちょっと…?」

『一撃で終わる』

そう言って飛行型魔物の口がガパッと開き怪しい光が集まる

「あの飛行船は壊したらダメよ…降ろしなさい」

私が命令すると飛行型魔物は渋々攻撃を止めて私を島へと降ろす
それと同時に兵らしき者達がやってきた

「侵入者め!覚悟しろ!」

ある程度兵達が近づくとそう言い放ち銃を構える

「犬…あいつ等を始末しろ」

私は犬型魔物に命令する それを聞くと同時に犬型魔物は炎を吐いた

ドゴォッ!

兵達は全て消し飛び地面が大きく揺れた後炎弾の着弾地点にクレーターが出来た

<ガガガガ!ザーーザーー………>

「………?もしもし?もしもし?」

魔物の攻撃の所為でマイクが狂ってしまったのだろうか?応答を求める


『早く船へ』

犬型魔物が振り向き私に進言する 多分アレでも威力を下げて撃ったんだろう
私は早々に飛行船へ乗り込み クヌムホーローを見下ろすように飛行させる

「もしもし…応答して下さい…もしもし」

<ザー……ザー……ザー……>

船に乗り込んでからも応答を請うが首輪から返事は無い…

「鳥…もう良い…破壊しろ」

飛行型魔物に命令を出す それを聞きキィィィッと静かな音を立てながら光が集まる
その最中に兵達の増援が着たが飛行型魔物が羽ばたきそこから放たれた針で即行全滅した…
その後口から巨大なビームが放たれクヌムホーローが消滅した…あっけない…

<ザー…ザー…ギガガッ   ご苦労だった直ちに城へ戻れ>

ようやく命令が出たので早速城へと帰還する
私は飛行型魔物を見て「消えろ」と意識する すると飛行型魔物はフッと消えた
召喚したモノは意識すれば簡単に消せるようだ 死んだ場合はどうなるんだろう?
犬型魔物は先程のビームで消えたが…死んだからもう出せないのだろうか?
まぁ次に召喚が許された時に試そう もうクヌムホーローは消滅したのだ よって召喚の許可は無い









「これは…一体…」

城が見えてきた…だが出発時と様子が違う
所々に大きな穴がありまた煙が上がっている
城下町も殆ど破壊されていて言わば壊滅状態だった

飛行船を元あった場所に降ろして城内へ入る…見張りの竜鬼族が一人も居ない…?
私がクヌムホーローへ出撃してる間に襲撃に遭ったのだろうか
しかし此処には王が居てそれを守る部隊も複数居た あんな短時間でやられる筈が…

城内を歩いていると背後から突如拘束され縛られた
それと同時に私を縛った何者かの正体が現れる____夜魔族のようだ

「全く…とんでもない生物兵器を作ってたね竜鬼族は…」

夜魔族は私を見下ろしてそう呟く 多分こいつが竜鬼族の城を滅ぼしたのだろう
他に仲間らしきものは見当たらないから一人でやったのだろうか?だとしたら何者なんだろう?

「さぁ来な人間 ハーズが帰ってくる前にとっととずらかるんだ」
「その首輪と仮面も外してやるから早く立て」

私は夜魔族の命令に大人しく従う すぐに首輪と仮面を外されそれらは捨てられた

「じゃあ飛行船乗って行こうか 話はそれからだ」

そう言われてクヌムホーローへ向かった時と同じ飛行船に乗り込む
何処へ向かえば良いのだろう?

「此処へ飛びな 操作方法は…解るよな?」

悩んでると夜魔族から地図を見せられ何処へ飛べば良いか教えてくれた





「そろそろ良いかな…では簡単に自己紹介をさせてもらう」

飛行船が飛び立ち指定地へ飛行してる時に夜魔族が話しかける

「私の名は『アム』…夜魔族と言われる種族だ」

アム…その名前は聞き覚えがある 確かウサギ仮面から聞いた夜魔族のトップ部隊の隊長だ
能力は認識阻害で一方的に攻撃できると聞いた なるほど…だから難なくあの城を陥落させたのか

「私は竜鬼族が危険な兵器を作ってると聞いてそれの奪還あるいは破壊する為にあの城へ向かったんだ」
「資料を見てアンタの事はある程度知ってるよ 悲惨な境遇だったね」

悲惨?…私は幸せだった 何が悲惨だと言うのか理解できない
それどころかアムはそんな私の幸せな生活を破壊した
竜鬼族の支配下で無い今能力の使用も自由だ 殺してしまおうか?

殺気を少し出すとアムがすかさず私に牽制する

「…おいおい竜鬼族の支配から逃れたと言っても今は私の支配下だ…妙な真似するんじゃないよ」

「………」

私は睨み続ける アムはそんな私を見て呆れるように言った

「何でそんな不機嫌なのかは解らないけどとにかくアンタは竜鬼族から解放されたんだ」
「資料見る限り酷い扱いだったそうじゃないか その地獄から解放してやったんだから感謝して欲しいよ」

「感謝…?何を感謝すれば良いのか?」
「私は幸せだった だがもうその幸せは失われてしまった」
「もうあの痛みを感じて生の実感を得る事はできない」
「もう仕事は与えられず働けるありがたさを実感できない」
「もう食事も与えられない…私は食べる事すら許されなくなった」
「もう殺し合いをする価値も無くなった…既にあの素晴らしい生活は奪われてしまったから…」
「もはや私が存在して良い場所は無くなった…生きる価値はもう…無い…」
「なのに…何故『感謝』しなければならない?」

私はアムに泣きつつそう言い放つ
だがアムもそれに反発した

「アンタ…あんなのが『幸せ』だって言うのか!?」
「私らの拠点にも人間や他の種族は居るが竜鬼族のように奴隷になんかはしない」
「私にとってアンタは今まで見た中で一番の『不幸者』だ 見てらんないよ」
「安心しな…あの城の生活より数万…数億倍良い生活を約束してやるよ」

「余計なお世話だ」
「私は…敵である貴様ら夜魔族と屍狗族を絶対許さん!滅ぼしてやる」

私はキッパリと断りアムを睨みつける

「……洗脳…か…あいつ等も酷い事をする…」

アムが哀れむような目で私を見て嘆く

そうこうしている内に目的地へと着いた









「兄貴…これは…どういう事だよ…」

崩壊した城へと帰還したフェルズが兄に問いかける

「………」

ハーズは静かに黙る

「何でだよ?俺達が出撃してた数時間で何があったんだよ!?」

フェルズが怒鳴るがハーズは冷静に返す

「多分精鋭部隊に攻められたんだろう…俺達が居ないからこそ攻めてきたかもしれん」
「この崩壊の様子を見る限りこれをやったのはアム部隊だな…」
「俺が知る中でこれほど短時間で城を陥落させられるのは奴等の部隊だけだ」

「畜生…畜生……!」

「副隊長…落ち着いて…グァッ!」

隊員がフェルズを宥めようとするが吹っ飛ばされる

「落ち着いてられるか!もう守るモノが無くなっちまったんだぞ!」
「こうしちゃいられねぇ…夜魔族のクソ共をブチ殺す!」

「まぁ待てフェルズ…それよりもコレを見ろ…」

ハーズがフェルズを引き止め首輪と仮面を見せる

「これは確かあの人間の…何で此処に?」

「これは俺の推測だが夜魔族はあの人間を連れ去り逆利用しようとしているかもしれん」
「我々や屍狗族の攻撃によって激しく疲弊してたからな逆転の一手を打つつもりだと予想する」

ハーズが仮説するが隊員が反論する

「単に逃げただけでは?城が壊滅していれば開錠するのは容易いですし」

「先程ビムクの部屋を見てきたがあの人間の資料が綺麗サッパリ無くなってた」
「あの資料を見て夜魔族が利用しない筈が無い 相手はか弱い人間だ拘束は容易い」
「資料を見てかつ脅威で扱えないと判断すればそのまま爆死させてた筈だ なのに首輪が此処にある」

「ふむ…ではあの人間の居場所は夜魔族の拠点に居る可能性が高いですね」

「あぁ…だが我々はアムと違って隠密行動はできん…もう奪われたも同然だ」

「だったら尚更だぜ!兄貴!やられっぱなしで堪るか 堂々と攻め込もうぜ」
「そしてあの人間をさらに奪い返しあの能力で奴等を滅ぼすんだ!」
「あの人間には俺達を味方と見るよう調教したんだろ?だったら奪い返すのは容易い」

フェルズが激昂し攻めようとハーズに提案する
それを聞いたハーズはしばらくの沈黙の後大きなため息をついて答える

「………わかった…正直俺はもうどうしていいかわからん お前に付き合うとしよう」

そしてハーズ部隊は夜魔族の拠点へと進撃するのを決めた










「皆!今帰った…ぞ…?」

此処は夜魔族の拠点…なのだが 何と此処も竜鬼族の城同様崩壊していた
破壊の痕が非常に少ないので全然気づかなかったが間違いなく滅んでいる
アムも私同様拠点に入るまで気づけなかったようだ
そして何者かが二体近づいてきた…屍狗族だ

「屍狗族!?何故此処に?」

アムが驚愕する

「あぁ?決まってるだろ テメェ等を滅ぼしに来たんだよ」

屍狗族の一人…女の方がそう答える
顔が見える距離まで来てさらにアムが驚愕した

「貴様…グウィン!?グッ…こんな時に…」

グウィン…その名前も聞いた事がある 屍狗族のトップ部隊隊長だ
確か能力は圧縮操作 そして兄のルクィが治癒蘇生の能力者だ
という事はもう一人の男の方がルクィだろうか?

「まぁ待てグウィン…始末するのはその人間が何なのかを聞いてからだ」

「兄さん…チッ…わかったよ…」

グウィンがルクィの制止を受け大人しく引き下がる

「さて…アム…その人間の女は何だ?何故連れ帰った?」

「答えるとでも…ウグァッ!?」

アムが反論すると急にアムの両脚が潰された グウィンの能力だろう

「答えてくれないと殺すよ?」

グウィンが殺気を込めて睨みつける

(どの道殺す癖に…)
「グッ…その人間は…竜鬼族が作った生物兵器だ…」

アムが脚を抑えつつルクィの問いに答える

「という事はその生物兵器を利用してやろうと思って連れ帰ったわけだな?」

「あぁ…そうだ…資料を見て使えると思ったからな」

私は若干呆れた あれだけ大口を叩きさらに良い生活をさせてやると言ってた癖に
結局は私を利用する事しか考えてなかったのだ
やはり信用できたものじゃない

「そうか…人間よ…こっちへ来い」

グウィンが居る以上私もロクに動けない 大人しくルクィの命令に従う

「人間…そこの夜魔族を殺してみろ お前の力を見てみたい」

「なっ!?貴様!ウグゥ!?」

今度は両腕が潰される もうアムは満身創痍だ 何もしなくても勝手に死ぬだろう

「さぁ人間よ…殺れ」

「………わかりました」

私は弾を一発放ちアムを消した

「ほぉ〜…音も無く消滅させるとは…やっべぇなその弾」

グウィンが感心したように私を見る
同時にルクィが疑問の声を上げる

「しかしこの程度で生物兵器?全然脅威に感じないが…もっと強大な力を使えるのか?」

「………」

「おい兄さんの問いに答えろよ!」

グウィンが私を掴みかかる 私が動けないのはこいつの所為だ…
掴みかかってきたこの距離なら不意打ちで倒せるかもしれない
だがまだ消すには早いか?竜鬼族と夜魔族は殆ど滅んだが屍狗族はまだ沢山生き残っている
こいつ等の拠点へ行ければ私がこいつ等を壊滅させられる…
なら…グウィンを殺しルクィを脅して案内させれば良いか?それが得策だそうしよう

「爆ぜよ」

「なっ!?」

ボンッと軽く爆破音が鳴り グウィンは消滅した それを見てルクィが驚愕する
いきなり妹を殺されたので警戒してかルクィは一気に離れ距離を取る
私はその様子を見て壁を出し魔物達を出す事に決めた

「我が呼び声に応え…現れ出でよ…」

壁から犬型魔物が出てくる クヌムホーローと共に消し飛んだ筈だが…死んでもまた出せるようだ

「犬…あいつを生け捕りにしろ」

命令を聞くと同時に犬型魔物がルクィを襲う
かなりの速度だったのでルクィは反応できずあっという間に捕まえられた

「グアァッ!?き…貴様…これ程の力を…」

犬型魔物に食いちぎられた脚が治っていく…コイツの能力は治癒蘇生だったな…
グウィンを蘇生させないのは消滅させたからだろうか?

「犬…そいつが完全治癒しても身動き取れないようにしろ」
「ただし会話はできる程度に留めろ 道案内をさせる」

私が命令すると犬型魔物は口から雷撃を放つ
それに直撃したルクィはピクリとも動かなくなってしまった

「バカ…誰が殺せと…」

『神経を麻痺させた 動けないだけだ我が主よ…』

「ぅ………ぁ……」

「………よし ではお前達屍狗族の拠点は何処か…教えろ」

私は飛行船から地図を持ち出しルクィに問い詰める
それを見て犬型魔物は嘘が吐けぬようさらに雷撃を加えた その雷撃便利だね…
20分程問い詰めてようやく拠点が解った 私は地図に丸印をつける

『主…誰かが来たようだぞ…』

「!?…解った報告ありがと…えと…」

何時までも「犬型魔物」や「飛行型魔物」とかの名無しじゃ格好がつかない
その内名前をつけてやろう そう決めてルクィを消し誰が来るのかを確認する

来たのはハーズ達だった そういえば城でアムが「ハーズが帰ってくる前に」と言ってたな
城の崩壊を見て何故かは知らないが夜魔族の拠点へ復讐に来たのだろうか?

「これはこれはハーズ様 此処にはもはや夜魔族は居ませんが?」

「…お前がやったのか?」

ハーズは訝しげに私に問う

「いいえ 夜魔族の拠点を滅ぼしたのは屍狗族です」
「つい先程グウィンとその兄を私が始末しました 今から屍狗族の拠点へ向かう予定です」

「何ぃ?奴等の拠点をどうやって暴いたんだ!?それに奴等を無傷で始末しただと!?」

フェルズが驚き私に掴みかかって問い詰める 苦しい…

「落ち着けフェルズ…聞く前に殺す気か?」

「あ?…あぁ悪ぃ…」

「ケホッ……こ、此処です」

降ろしてもらった後マークをつけた地図をフェルズに見せる
フェルズは私から地図を奪いハーズに渡した

「ここか…遠いな…だが飛行船があるからそこまで時間は掛かるまい」

ハーズが地図を見て話す この様子だとやはり屍狗族の拠点へ向かうようだ
隊員達が飛行船の点検を済ませる いつの間に点検なんてしてたんだろう 仕事が速い

「あの…」

「あぁ?何だよ?」

フェルズが不機嫌そうに答える

「今から夜魔族の拠点を破壊しますが宜しいでしょうか?」

「何でだよ?既にそこの拠点は滅んだんだろ?」

フェルズはそんなの必要ないと言わんばかり
だが私は…

「徹底的に滅ぼしたいんです 我々の敵ですから」

「良いだろう…許可する」

それを聞いてハーズが許可を出す

「ありがとうございます下がってて下さい」

「あ…兄貴…」

「どうやって滅ぼすのか見てみたいからな それで屍狗族の拠点も潰せるか判断できる」

「兄貴がそう言うなら…」

渋々フェルズは引き下がる
そして私は壁を出し巨人型魔物を出す事を試みた

「我が呼び声に応え…現れ出でよ…」

壁が怪しく光る…だが…何も出なかった

「………どうして?」

ならもう一度…今度は戦車型の魔物を出してみよう

「我が呼び声に応え…現れ出でよ…」

壁が怪しく光り 戦車型の魔物が現れた

「こいつは…」

流石のハーズ達も驚きを隠せず魔物を見ている

「命令だ 夜魔族の拠点を跡形も無く消し去れ」

『オオオオォォォォォッッッ!!!』

戦車型魔物は雄叫びを上げた後クヌムホーローを消し去ったあのビームよりも
もっと大きなビームを放った 凄まじい轟音が鳴り響き地面が揺れる
ビームの放出が終わると拠点は跡形も無く消え去っていた

「ご苦労…消えろ」

私は意識し戦車型魔物を消す
ハーズ達はポカンと呆気に取られた表情で私を見ていた

「?…どうかしましたか?」

「あ?あぁ…いや……屍狗族の拠点へ向かうぞ」

そうしてハーズ達と共に飛行船へ乗り込んだ
今度は飛行船にちゃんと乗せてもらえた事から仲間として認めてくれたのだろうか?






「しかし…あれ程とはな…」

フェルズが私を見て呟く

「…?……何がでしょうか?フェルズ様」

「てめぇの力だよ 一瞬で夜魔族の拠点を消し飛ばすとはな」

フェルズが感心したように語る その様子はどこか満足したような…とにかく喜んでる気がした

「確かにな…その力があれば敵を即座に始末できる…これからもやってくれるな?」

「勿論ですハーズ様」

「ハウビェシーム上空へ入りました もうそろそろ屍狗族の拠点です」

「よし!引き続き警戒しつつ拠点へ向かえ」

「了解」

屍狗族の拠点へと向かう…
夜魔族はもう滅びたも同然だ 早く屍狗族も滅ぼしたい…
私の幸せを奪ったのだ 必ず…滅ぼしてみせる!

「…何考えてるんだよ?」

考え込んでるとフェルズが不思議そうに問いかけてきた

「早く奴等を殺したくて…あの幸せな生活を奪ったんだ…許せない…」

(…洗脳はしっかりできてたって事か…ビムクのおっさんもよくやるぜ…)

フェルズの問いに答えた途端急に飛行船が大きく揺れた

「何事だ!?」

ハーズが状況を確認する

「こ、攻撃を受けています!超遠距離対空射撃!方角からして屍狗族の拠点からです!」

パイロットの部下がハーズに伝える 珍しくハーズが焦る

「くそ!もう少しだってのに!もう飛行できないのか!?」

フェルズが悔しそうに叫ぶ 私だって悔しい 何も出来ずに落とされるなんて…!

「…っ!ミサイル接近!皆さん緊急避難を!」

「ちぃ!仕方ない!降りるぞ」

飛行船がミサイルによって吹き飛ぶ前に私とハーズ部隊は森へと落ちた







森の都[ハウビェシーム]
何とか死なずに降りる事ができたが…
ハーズ部隊とはぐれてしまい一人になってしまった
私はウサギ仮面が住んでいた場所をたまたま見つけそこで休息を取っている
ウサギ仮面はどうしたのだろうか?会いたくは無いが気になるな

(まさか…此処に戻る事になるなんてね)

ベッド…とは言えもう今ではボロボロだがそこにもたれてゆっくりと休む
飛行船を撃墜された時のダメージが酷くてまともに動けない…痛い…

痛い……でもこの痛みは…生きている証……私は今…生きている実感で満たされている
今日は色々と大変な一日だった
クヌムホーローを滅ぼし帰ってみれば城が陥落してて
アムに連れ帰られたらその夜魔族の拠点も滅んでて
グウィンとルクィを殺し…屍狗族の拠点を潰そうとしたら今に至る

一日で多くのモノが死んだ 三種族の勢いはもはや無くなり
この世界を支配するものは屍狗族か別の種族となるだろう
人間は私がクヌムホーローと共に滅ぼしたも同然なのでそれが人間にならないのは確実だが…
有力なのは翼人族だろうか?レビ・ヴィグスム・アポルから出てくればの話だが


ザッ…ザッ…ザッ…


何かが来る…敵だろうか?
私は壁を張り警戒する


ザッ…ザッ…

何かが姿を現した しかし竜鬼族でも夜魔族でも屍狗族でも人間でも無かった

(何…なの…?)

それの容姿は…何と言えば良いのか…化け物だった
先程上げた四種族…竜鬼族と夜魔族と屍狗族と人間を足した感じで全身が黒く所々紅く光っている
そして薄暗い蒼い炎を纏っている鬼だった
黄金色に輝く光の剣みたいなのを持っている

ふとその化け物が剣以外の何かを持っているのに気づく
それはハーズ達の首だった それぞれ悲鳴を上げた様な表情をしたまま死んでいる

「ひっ……あぁ…?…ぁあぁ……っ」
「ああああぁぁぁぁっっ!!」

私は思わず逃げ出した
あのハーズ部隊が何の音も無く全滅しているのだ この化け物は相当ヤバイ部類に入るだろう
無我夢中で森を走る

化け物は新たな得物である私を追いかける
振り切る為に壁から魔物達を出して足止めする事にする

「はっ…はっ…我が呼び声に応え…現れ出でよ!」

犬型魔物と飛行型魔物を同時に出し 化け物を倒すよう命令する

『ギャアアアアアアッッッ!!』

振り返ってみると魔物達がもう殺られていた
あの魔物達が一瞬でやられるなんて…

「はっ…はっ…はっ…ウぅッ!?」

突如足を斬られ倒れてしまう 化け物を見れば光の剣を振り終えた後のようだ
化け物と私との距離はざっと80Mはある…なのにこの距離で斬られるなんて…
切断されなかっただけマシか…傷は深いがまだ立てる…

「くっ…!出でよ!」

私は周囲に壁を張り安全地帯を作る
それと同時に魔物達を呼び出した

化け物は光の剣を一振りすると私が呼び出した魔物達は全て切り刻まれて音も無く消滅した

(殺られる……ここまで生きたんだ…死にたくない…)

私は化け物を睨みつけ弾を散弾状に放った
だが弾は化け物には当たらず通り抜けそのすぐ後ろの木が消えるだけで終わった

(攻撃が当たらない!?)

化け物はまた光の剣を一振りする…しかし今度は何も起こらなかった
多分…私の壁が攻撃を防いでくれてるのだろう
今度は壁に触れようとしてきた そのまま壁に飲み込んて消せれば…!

壁は化け物の腕を飲み込むも今までと違って一気に飲み込まれなかった…
化け物は腕を引っ込めると壁で消された部分が復活する

(これでは倒せない…)

巨人型魔物のように自分から突っ込んでくれれば良かったが
この化け物は流石にそこまでバカでは無いらしくこちらの様子を伺っている
追尾弾を撃ってみるもやはり通り抜け化け物には命中しない…
いや…実際は命中しているが即復活しているのかもしれない

(ここまで…なの…?)

折角…生き延びたのに…
あらゆるモノを失いここまで生きたのに…結局私は死ぬのか?

「まだ…まだ諦めない!死んでたまるかぁっ!出でよ!!」

私は今まで消し去った全ての魔物達と夜魔族、屍狗族を呼び出した
前回出てこなかった巨人型も出てきてくれている…これなら…!

「命令だ!私の目の前にいるその化け物を殺せ!!」

魔物達が一斉に攻撃し森が消し飛んだ

「………やったか?いや…もしこれで終わるようならさっきの攻撃で終わってる筈…」

案の定化け物は生きていて私が呼び出した魔物達は全て切り刻まれていた






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あとがき

第十三話終了 どうでしたか?

いや〜それにしても長かったね〜でももう少しだけ続くんじゃ
かなり急展開ですがちゃんとそうなってしまった理由ぽいのがあるので聞いてください

まず竜鬼族ですが弱化してる夜魔族は一旦放置し屍狗族に攻撃を仕掛けるという選択肢を取りました
そこで最も力のあるハーズ部隊を屍狗族の領地へ攻め込ませたわけですね
ハーズ部隊が攻め込んでる間に禍たんはクヌムホーローへ向かい人間達を滅ぼします
んで禍たんとハーズ部隊が居ない時にハーズ部隊を警戒して
中々攻め込めなかったアム部隊が竜鬼族の襲撃を掛けたわけですね
アムは大分前から待機してたのでハーズ部隊が居なくなってようやく作戦決行する事ができました

では夜魔族の拠点が滅んだ時期ですがこれは禍たんがクヌムホーローへ向かった日ではなく
その3,4日前に滅んでます アム部隊が居ないという情報を得た屍狗族が襲撃を掛けたわけですな
屍狗族はアムの能力を警戒し いずれ帰ってくるであろう拠点にグウィンとルクィを待機させました

後は劇中通りです 禍たん視点で書いてるからこんな急展開に見えてしまうわけですね

全体の動きを大まかにまとめるとこんな感じになるかな?

禍たん
竜鬼族の城にて生き地獄を味わうが思考が壊れたのでそれが幸せと感じるように
実験をある程度終えてビムクの案によりクヌムホーローへ派遣 水の双璧[クヌムホーロー]を滅ぼす
クヌムホーローから帰還した所を夜魔族:アムに捕らえられる
アムと共に夜魔族の拠点へ戻りグウィンとルクィに出会う この時ルクィの命令によりアム殺害
それに続いてグウィンとルクィも殺害しハーズ部隊と再会
ハーズ達と共に屍狗族の拠点へ向かうも途中で屍狗族の迎撃により撃墜されハウビェシームへ落ちる
そこで正体不明の化け物と出会い生き延びる為に奮闘←今ここ

竜鬼族
夜魔族はもう脅威で無いと判断し屍狗族を徹底的に叩く為に領土を奪おうとハーズ部隊を派遣
しかしハーズ部隊が拠点から一時消失した事で襲撃したアムの手によって陥落
竜鬼族の拠点は滅ぼされてしまう
帰還したハーズ部隊はアムの仕業だと予測し夜魔族の拠点へ向かうが
そこには既に壊滅した夜魔族の拠点と霊禍が居た 霊禍と合流し新たに得た屍狗族の拠点へ向かうも
飛行船を撃墜され霊禍と共にハウビェシームへ落ちる
その後正体不明の化け物の襲撃によりハーズ部隊は全滅し竜鬼族は衰退した

夜魔族
竜鬼族が新兵器を作ってるという情報を得てアム部隊を派遣する
しかしアム部隊が拠点から抜けて戦力が落ちた所を屍狗族に狙われ陥落
拠点にアムが帰還するもそれを待っていたグウィンとルクィが間接的にアムを殺害
以後生き残った他の夜魔族は散り散りとなり夜魔族は衰退した

屍狗族
夜魔族拠点にアム部隊が居ない情報を得て襲撃を掛けて成功し夜魔族をほぼ壊滅させる
しかしこの時夜魔族襲撃に戦力を分けてた為ハーズ部隊からの攻撃に耐え切れず領土をハーズ部隊に奪われる
またアム討伐の為に夜魔族拠点に待機させてた屍狗族エースのグウィンとルクィが死んだ事により
戦力を大幅に低下させてしまう だが他二種族と違い壊滅的なダメージは受けていないので
その後飛行船で接近したハーズ部隊を難なく撃墜する
アムが予想以上の働きをしたので竜鬼族の脅威がほぼ無くなりこの戦争に勝利した

13話で新たに消して使えるようになったのは次の通り(重要そうなものだけ)
夜魔族:アム
屍狗族:グウィン
屍狗族:ルクィ
???の斬撃
???の蒼炎

13話で禍たんが自覚しているもの
D・ウォール
D・スフィア(通常)
D・スフィア(貫通)
D・スフィア(追尾)
D・スフィア(散弾)
召喚

現時点で召喚可能なもの(重要そうなものだけ)
犬型魔物
飛行型魔物
戦車型魔物
巨人型魔物
夜魔族:一般
屍狗族:一般
夜魔族:アム
屍狗族:グウィン
屍狗族:ルクィ

そして新たに応用としてエクスプローディング・スフィアを習得しました
任意の位置を爆撃できます 勿論この爆破で消滅させたモノは召喚可能です

さて次はどうなるんでしょうね?多分そろそろ死にます もしかしたら死なないかも
しかし竜鬼族をことごとく吸収できなかったのは痛いですね〜少なくともフェルズの能力は欲しかったね

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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