東方輪廻殺
第二十三話 捜索

光の扉を潜ると草原に出た
そこからやや離れた場所に街らしきものが見える
早速私は街へと向かって歩いた

近づくと門らしきところで何やら検問をしているのが確認できた
人が大勢並んでいるので私も習って列に並ぶ
私だけ手ぶらなので少し目立つ…恥ずかしい



「では身分証明を…」

私の番になり身分証明を求められる
しかし私は手ぶら…自分の証明等この身体以外に何も無い

「…ありません」

「………お帰り下さい…」

「そんな!?お願いします!何もわからぬまま此処に来たんです!助けて下さい!」

「次の方どうぞ〜」

「ちょっと!聞いてよ!ねぇ!ねぇってば!」

「はいはいお嬢ちゃん 迷惑だからこっち来ましょうね〜」

どこからか男達が現れ私を拘束する
私は引きずられるように別所へ連行された





私は薄暗い小屋に連れられた
石で出来た小さな建物でどこか重々しい雰囲気がある
………あれ?これもしかして牢屋か何か?何で!?

まぁ出ようと思えばすぐ出られるが
それをする場合まず私を連れてきたこの人達を始末しないといけない
そんな事をすればすぐさま私は危険人物として扱われ
またあの幻想郷の時の様に戦うハメになるだろう そうなるのは嫌だ
余程命の危険に晒されない限り抵抗はしないでおこう…


「うぐっ!」

私は乱暴に壁に叩きつけられる 痛い…

「さぁ〜て おイタをする悪い子にはお仕置きしないとなぁ?」

「え…?私何も悪い事してないよ?」

「あぁ?検問の時に十分迷惑かけただろうが!」

男が私を睨みつける 少しばかり殺気も感じる…

「ひっ………お、お願い…殺さないで…」

何か早くもピンチだがまだ命の危機では無い
今この小屋には大の男が4人に外の見張りが5人程度だ
特に霊力その他の力もそんなに感じられず見るからに隙だらけ
始末しようと思えばすぐにできるがそれはやりたくない
私は殺し合いに来たんじゃない…皆と仲良く生活したいだけだ
だから私は素直に命を乞う…殺戮をしない為にも…

「へっ…自分の立場ってのが少しは解ってるみたいじゃねぇか」
「でもだからと言ってお仕置きを止めるわけにはいかねぇなぁ…?」

私を睨んだ男がにやける

「お仕置き…?」

「何…心配するな…別にお嬢ちゃんを殺そうだなんて思ってるわけじゃねぇ」
「ちょっと俺達の為に働いてもらおうかなと思ってな?」

「わ…わかりました……何をすれば良いんですか?」

私の返事を聞くと後ろで様子を見ていた男の一人が近づき私に二枚の写真を渡す
写ってるのは背の高い女とやや小柄な男だ この二人に関する事かな?

「この二人を探し出して連れて来い」

「…この二人は…何を?」

私は男達に詳細を求めた
意外にも男達は何ら抵抗する事無く普通に事情を話してくれた

写真の二人は賊らしく自称とれじゃーはんたーとか言うもので盗みを働いてるらしい
女の名前はルゥで男の方はシュウと言う
男達はとある遺跡を調査していたのだがこの二人にその遺跡にあったらしい宝物を奪われたとの事だ
また話によればこの二人は何らかの奇怪な能力を持っているらしく
密室で完全包囲して追い詰めたにも関わらず逃げられたという
その二人を私が捕まえて男達に差し出せばこの街に入れてやる事を考えてくれるそうだ

この二人は拠点を持ってるらしく全ての拠点は男達は把握しているが
顔が割れている為か近づくだけですぐ逃げられてしまうらしい
なので今回男達とは関わりが無いと思わされる私という存在を使って捕まえようという策だ

「………わかりました…この二人を連れてくれば良いんですよね?」

「あぁ…そうだ…それでお仕置き完了」
「それどころかこの街に入れるよう配慮しても良い 悪い話じゃねぇだろ?」

「殺しはしないんですよね?…喜んでお受けします!」

「よし決まりだ!失敗したら…そうだな…売られろ」

「………へ?」

売られる?何処に?何を?
というか私っていつの間にかこの男達の所有物扱い?

「丁度奴隷が欲しいみたいな事言ってる俺達の客が居るからな」
「変な事されたくなきゃ精々頑張る事だな!」
「まぁその客はこの街に居るからお嬢ちゃんは絶対街に入れるわけだ 良かったな 俺達優しい」

「期限は2週間だ ほれその分の食糧 無駄にするなよ」
「それとバッチだ…これがあれば全国の検問を通れる 勿論2週間後には返してもらうからな」
「発信機仕込んであるから逃げようとは思わんことだ」

「捕まえたら真昼にこの小屋に来いよ その時間帯にお嬢ちゃんが来てないか確認するから」

時計の形をしたバッチと約20個のパン、それと8本の大きな水筒
そして拠点の位置に印とメモのついた地図を渡され
男達は早々と小屋から立ち去る

「………え?ちょっと…今この二人の居場所は?」

どうやら概要だけ伝えて後は自己判断らしい
失敗すれば身売り…何としても成功させないと…
早くも嫌な展開になった…どうしてこんな事に…





小屋から出て地図を見る
現在位置はこの街…地図によれば此処は[カーミラ]という小国だそうだ
この世界にも国が分かれていてそれぞれ地図に大きく描かれている
またこの世界の大陸は面白い形でまるでCDのような形をしている やや歪ではあるが…
…ところでしーでぃーって何だろう?いかんいかん また電波が…

大陸の円のど真ん中にある小さな海に孤島がありそこは禁海域[ネミセト]と呼ばれる
ネミセト………確か…ウサギ仮面が居た世界の…
森の都[ハウビェシーム]の近くにあったのは風霊域[ネミセト]だった筈…
同じ名前でどちらも禁域………偶然かしら?

まぁネミセトはどうせ用が無いので放置しておく
問題は例の二人の拠点だ…何とこの二人…ネミセトを除く全ての大国に拠点を持っているのである
正確には各大国の属国に拠点があるのだが…
大国は全部で8つ有りそれぞれ綺麗に区分けされている
北方の大国は[リゴフ]
北東の大国は[オルヴィア]
東方の大国は[フェクマ]
東南の大国は[ヤシ]
南方の大国は[アークム]
南西の大国は[ヘラ]
西方の大国は[ゴノイェ]
北西の大国は[ウルキム]

現在地である[カーミラ]は大陸の東に存在しており[フェクマ]と呼ばれる大国の属国となっている
つまり…もし二人が西の大国[ゴノイェ]に潜伏していた場合
どう考えても期限の2週間では間に合わない そうなったら身売り確定!うぅ…
禁海域[ネミセト]を囲う海を通して最短ルートで移動し入国しても
捜索や捕獲に時間が掛かるだろう…それに私は飛行できないし船も当然無い
2週間以内に反対側にある大国に入国するだけでも奇跡的な状況だ…
失敗すれば身売り…いくら命"は"助かるとは言え奴隷は嫌…

小国含む全ての国には検問があり私のような存在は通れない
今は男達から借りたバッチがあるから期限までは出入りできるが期限を過ぎれば返さなければならない
逃げようにも発信機あるし…入国してからバッチを捨てても後々困る事になるのは目に見えてる

「…時間が無い…とりあえず移動しないと」

最寄のこの国…[カーミラ]には二人の拠点は無いようだ
ここから最も近い拠点は此処から北の[ゲーリア]という小国らしい
そこがハズレならどんどん北へ向かって回ろう…
もし此処から南にある拠点に居たら…
2週間どころか2ヶ月でも間に合わないだろうな…すぐ見つかりますように






「我が呼び声に応え…現れ出でよ!」

私の声に反応して襲牙が現れる
呼び出せる魔物達の中では最も目立たないのが襲牙なので呼び出した
空龍は飛行できるが飛ぶというのはそれだけで目立つし
崩炉と覇斬はでかすぎるので論外だ また幻想郷の二の舞にはなりたくない
アムは認識阻害のお陰で目立たなさでは一番だが生憎私を担いで高速移動できる程ではない
グウィンとルクィも同様だ なので残りは襲牙のみとなる
大丈夫…頭が二つあってやけにでかくてちとグロイ容姿なので"ちょっと"目立つだけだ…問題無い…
立派に犬と言い張れる!………あぁ…大丈夫かなぁ…
国に近づけば消して歩きでいけば一般にはバレないだろうし…多分いける
魔物達を使えば私は化け物を行使する者として世界に居づらくなるからあまり使いたく無かったが…

「それじゃ襲牙…乗せてくれる?」

『お望みとあれば…』

私は襲牙に乗る ちょっとぬめっとしてて座り心地はあまり良くない…

(ホントでかいなぁ…)
「じゃあ襲牙…北の…此処に急行して頂戴」

襲牙に地図を見せる 即座に理解したのか襲牙は疾走した
あまりにも速いのでかなり揺れる 落ちそうだ

「ひぃぃっ!も…もっと揺らさずに移動できないの!?」

『すまない主…それは無理だ』
『む!野熊発見!食べて良いか?主よ』

左右の頭がそれぞれ話す 勿論熊を食べてる暇は無いので禁止した






ゲーリアへ到着した事を襲牙が教えてくれた
結局落ちないよう必死にしがみついてたお陰で「ある程度近づいたら徒歩」が出来なかった…
それにぬめぬめした襲牙の体液でべとべとだ…うぅ…失敗だったかなぁ…

「べとべとするよぅ…」

『…主 少しの間こっちを向いてくれ』

「ん?うわぁっ!?」

襲牙に呼びかけられたので何かと振り向く
すると襲牙の口から何かの液体をぶっ掛けられた

『これでどうだ?』

どうだと言われても…
確かにべとべとによる不快感は"ある程度"消えたが今の私は白濁まみれだ
ぶっちゃけ悪化したと言わざるを得ない

「………………お疲れ様襲牙…此処からは一人で行くから消えて」

『お気をつけて』

襲牙を私の世界へ消し ゲーリアの検問へ向かう…こんな格好で入国できるか心配だ…


「では身分証明を…」

「これで良いですか?」

私は男達から借りたバッチを見せる

「はい、よろしいですよ 次の方どうぞ〜」

割とあっさり入れた…おい、もっと細かく調べなくて良いのか?
明らかに私怪しいでしょ!手ぶらだし周りと違う格好してるし白濁まみれだし
てか私の周囲10Mに誰も近づかない………ちょっと泣きそう


「ここらへんの筈だけど…」

地図に記されたメモを見ながら拠点を探す
男達が余白に各拠点の詳細位置を記したのだ それを頼りに探すが…何処だろう?

「あ!銭湯!…でもお金が無い…」

この白濁液を早く流したい しかし私はこの世界に来てまだ2時間しか経ってない
当然文無しである 泣く泣く銭湯は諦めた


「あった…ここが二人の拠点…」

ようやくメモの場所を見つける
見るからに普通の家だ 普通過ぎてアジトって感じが全然しない
まぁ案外アジトってのはこういうのが普通かもしれない 目立たないしね

「ごめんくださーい」

ドアをノックする だが何の反応も無い

「………居ないのかなぁ…はぁ…」

居ないのなら何処か出掛けてるのだろう
次は聞き込みをしてこの国に居るか探そう…


「すみません この写真の二人を探してるんですど知りませんか?」

若い男性に質問する

「知らない」

男性は私を見るなり嫌な顔をして写真も見ずに立ち去った


「すみません この写真の二人を探してるんですど知りませんか?」

若い女性に質問する

「知りません」

女性は私を見るなり嫌な顔をして写真も見ずに立ち去った


「すみません この写真の二人を探してるんですど知りませんか?」

年老いた老婆に質問する

「知らないねぇ…」

老婆は私を見るなり嫌な顔をして写真も見ずに立ち去った


「すみません この写真の二人を探してるんですど知りませんか?」

検問していた男性に質問する

「管轄外です」

男性は私を見るなり嫌な顔をして写真も見ずに仕事に戻った



「うぅ…どうして…誰もまともに話もしてくれないの…」

内心傷付きつつ此処には居ないのだろうと予想し次の拠点へ向かう事にした
次の拠点がある国は[ジシル]という小国だ オルヴィアの属国でありやや遠い

「我が声に応え…現れ出でよ…」

再度襲牙を出し乗せてもらう 早速ジシルへと向かった






『着いたぞ主』

ジシルへ到着 早速襲牙から降りる………と同時にまた白濁液をぶっかけられた
良心でやってるだろうが止めて欲しい さっきより酷くなってしまった
もうびしょびしょだ 濡れてる所為か少し肌寒い

「ありがとう…でももうソレぶっかけるのは止めてね」

『む…それはすまない…ではお気をつけて…』

襲牙が消えゲーリア同様検問へ向かう


入国を無事に済ませ拠点を探す
相変わらず誰も私に近寄っては来ない
それどころか近づくと離れる…そして皆私をジロジロ見る…

(やっぱり…変だよね…こんなの…)

私は落ち込みつつようやく見つけた拠点をノックする 最初から期待はしてないが…
数回呼びかけるが反応無し 此処も外れのようだ
では次は聞き込みだが…皆私から離れる為誰にも聞き込みは出来なかった
強いて言うなら入国の時に聞いたが此処でも「管轄外」とか言われる始末


「次行こう…」

次に近い拠点は[フートゥヌ]という小国だ リゴフの属国だ
時間的に今日はここを調べられれば上出来だろう
1日で一気に3つの拠点を調べられたのは比較的平地で移動が早く済んだのと
調査がすぐに終わったからかもしれない このペースなら2週間で全部回れるが…
少なくとも乗り物が無かったら絶対間に合わないだろうな…

「我が呼び声に応え…現れ出でよ…」

再度襲牙を呼ぶ
先程同様乗り 早速フートゥヌに向かった



ジシルからフートゥヌへの距離はかなり長く
襲牙に乗っての移動でさえかなりの時間を要した
到着した頃にはもうすっかり暗くなっており 何と門が閉まって入国できない

「そんなぁ〜…」

がっくりと項垂れる
入国に時間制限なんて聞いて無いよ…

『すまない主…我がもっと速く移動できていれば…』

「いや…襲牙は悪くないよ…はぁ…」

『これからどうする?』

「とりあえず野宿かなぁ…一応食糧もある…し……」

雪が降っているので少しでも寒さから逃れられる場所を探さないといけない
私の世界で寝ても良いが前々世界では私の世界で寝たからこそ死んだとも言える
未だに死んだ理由はわからないが無闇に私の世界で寝るわけにはいかないかもしれない

男達から渡された食糧を見て唖然とする
全部溶けているのだ パンは勿論水筒も穴が開いていて
パンも水筒も白濁まみれだ
私やバッチが溶けてないのは私が襲牙の主でバッチや服は私が着ているからだろうか?
気が付けば地図も所々穴が開いている

「あぁ…ぁ……これじゃ…私…売られちゃう……うぁぁ…」

『………………』

襲牙は申し訳無さそうに消えていき 私は一人泣いた





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あとがき

第二十三話終了 いや〜平和回でしたねw

今回はサクサク書けました だって楽しかったんだもん
鬱展開でも何でもないし ホント平和って良いねw
とりあえず白濁まみれにして久々に禍たん泣かしてみました
こういうのもアリだと思うんだ 何かこう…きゅんって来るよね?w 禍たん可愛い!

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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