東方輪廻殺
第二十五話 切替

「はぁ…」

フートゥヌの門をぼーっと見つつため息を吐く

「……くしゅんっ!……うぅ…」

寒くて思わずくしゃみが出る
仕方ないか…冷えた夜に濡れた身体で一人立っているのだ…風邪をひいてもおかしくない

「はぁ……はぁ……まだかな……」

私は空龍の帰りを待っていた
先程召喚しこの濡れた身体を洗う為の水場を探しに行かせたのだ
川でも湖でも何でも良いからとにかく洗い流したかった…

「でも…この寒さじゃ…自殺行為かしら………くしゅんっ!」

くしゃみが出るたびにまた体温が下がる
吹雪いてきてるのでこのままだと凍死しかねない

「はぁ……はぁ……はぁ…はぁ……さ…寒い……」

呼吸も段々と荒くなる
身体はもう震えを止めてしまった 本格的に危ないかもしれない

「…そう…だ……襲…牙…」

襲牙を召喚し命令する

「炎を吐いて…私を温めて……くれぐれ…も私を焼き殺さないように……」

壁を使って自分が炎を出しても良いのだが
意識が薄れてる今は眠っても大丈夫なように魔物を使うほうが都合が良かった

『了解だ』

襲牙が加減した炎を吐き続け段々と温まる
体力の消耗が先程より少なくなった所で霊禍は眠りについた






(………?)

目が覚める だが息苦しい…何かが私を覆い被さっている
蠢くが動くたびに冷たい感触が霊禍を襲う
力を振り絞り立ち上がろうと動くが私に乗ってる何かは重く結局身動きは取れなかった

(何が起きてるの?このままでは…窒息する…仕方ない…)

私は私の世界へと繋ぎそこへ緊急避難した



『大丈夫ですか?主』

自己世界へ入ると同時にルクィが迎えてくれて消耗した私の体力を回復してくれた
冷え切った身体は温まり力が漲る

「何があったの?襲牙は?空龍は?」

「2体共討伐されました その時襲牙は主まで襲われぬよう場所を変えました」

「…という事は私は雪に埋もれて寝ていたわけ?」

「そうなりますね」

我ながらよく生きていたものだ

「討伐されたって…誰…いや…何に?」

『人間の軍隊だ…我等は危険視されそのまま攻撃を受けた』

襲牙が現れ事情を話す

『主から殺傷禁止命令を受けていた我等は消える他無かった』
『それから…湖は見つけたぞ 門から向かって左に真直ぐ進んだ先にある』

「そう…悪かったわね…」

『構わぬ…我等はもう不死身に等しいからな』

「…今日で二日目か…うまくいくかなぁ…」

「大丈夫ですよ…それで…どうします?今日は此処で過ごしますか?」

「いや…もう外に出るわ…何時までも此処で過ごしてたら私の旅の意味が無い」

「そうですか…ではお気をつけて」

私はルクィ達に感謝しつつ外へ出た もうすっかり夜は明けて雪も止んでいる





「まだ門は閉まってるのかぁ…じゃあ禊にでも行くか…」

空龍が見つけた湖へと向かう
結構歩いた先にようやく湖を見つけた

「冷たい…けど 今なら大丈夫ね よし…」

ルクィの能力のお陰で体調は体温含めて万全だ
服を脱ぎ身体を洗い始める

「…水風呂のようなものよ…平気平気……」

カチカチと歯を鳴らしつつ身体を洗う
無事に禊を終えてある事に気づく

「…服…どうやって乾かそう…」

そういえば乾かす事ができない
炎を使うと燃えて無くなりそうだからやりたくないし…

「我慢するしかないか…」

諦めて服も洗い始める
一人野外で裸なのは恥ずかしいので素早く洗浄を終え服を着た

「寒い…でも我慢我慢!こんなの死や否定に比べれば屁でも無いわ」

結局洗っても洗わなくてもぐしょぐしょに濡れたままでフートゥヌへ向かった







「此処も外れ…か……くしゅんっ!」

服が自然に乾いてきた所でフートゥヌでの調査を終えた
思ったより広く結構時間が掛かってしまった

「うぅ…さて…次の拠点に行くか…」

空龍を呼び出し乗る 襲牙で無い理由は
北:リゴフから西:ゴノイェまで険しい山道が続くとフートゥヌにあった世界地図で知ったからだ
ならば時間の掛かる陸路より少々見つかる恐れがあっても短時間で移動できる空路が良いだろうと
空龍を選んだのだ 決してまたベトベトで白濁塗れになるのが嫌なわけではない

「あぁ〜…寒い…さ、空龍…さっさと次の目的地に向かって頂戴」

次の拠点は[キビー]という国で[ウルキム]の属国だ
私と空龍は颯爽とキビーへと向かった




あっという間にキビーへ到着 もう慣れてきた入国審査をバッチでスルーする

「さて…と まずは聞き込みね」

余談だがフートゥヌでは普通に聞き込みが出来た
ゲーリアとジシルで聞き込みできなかったのは十中八九白濁塗れだったからだろう
面倒事になりたくないから関わらなかったと思う


「この二人を知りませんか?」

「その二人なら先週見かけたな…ここから北の遺跡に行くとか言ってたよ」

「ほ、本当ですか!?」

「でも先週の話だ…その二人はトレジャーハンターでね もうこの付近には居ないんじゃないかなぁ」

「そうですか…わかりました…ありがとうございます」

「いやいや…頑張ってねお穣さん」


キビーでの調査が終わる
拠点は相変わらず留守で聞き込みは先程の遺跡へ行ったという情報だけしか手がかりが無かった

「北の遺跡か…くしゅんっ!…うぅぅ………行くしかないよね…」

地図を見たところキビーのすぐ北にある遺跡は1つだけだ まぁすぐ見つかるだろう
出国し駆け足で遺跡へと向かった




「…此処ね」

ようやくくしゃみが収まってきた所でルゥとシュウが先週入ったとされる遺跡へ到着
それはもう「遺跡です!」と言わんばかりの場所だった…それくらいわかりやすい

「危険を冒してまで入る必要は無いわね〜…グウィン」

「久々の出番だー!さぁ!誰をぶっ殺すんだ?主!?」

グウィンが元気良く出てくる

「命令よ この遺跡の中に入ってこの二人が居ないか調べてきなさい 殺しは禁止」

「殺傷禁止!?…何があっても?」

「何があっても」

「殺されそうになっても?」

「アンタ等私が存命する限り死なないんでしょ?」

「…つ、つまんねー!」

文句を言いながらしぶしぶグウィンは遺跡へと入っていった

「………待ってる間暇ね…」

私は遺跡周辺で何か食べられるものが無いか探し始めた





「さて食糧〜食糧〜っと お、鹿発見」

ある程度山道を歩き回ってると鹿を見つける 鹿は私に気づいていない

「鹿肉か…食べた事無いわね…とりあえず狩るか」

気配を消して近づく 気配を読んだり消したりする術は幽玄師匠から習ったものだ
普通の動物はただ気配を消すだけで容易に接近できる
人間相手であってもその人間が凡人なら同様に接近できる

「はい捕まえた〜」

即座に鹿の脚を蹴り折り鹿が逃げられないようにする
鹿は苦痛で暴れるが無様にのたうつだけとなった

「ごめんね…謝るくらいならやるなよって話かもしれないけど…私も食べていかなきゃいけないのよ」

謝罪しつつ鹿の頭を踏み固定する

「あなたの肉体は一片たりとも無駄にしないわ!はぁっ!」

「待て待て待てぇー!!それは俺の鹿だ!殺すんじゃねぇっ!」

トドメを刺す直前で制止の声が聞こえ手刀を止める
振り向くと貧相な男が息巻いていた

「………何?アンタにやる鹿肉は無いわよ?」

「だからっ!それは俺が飼ってる鹿だっつってんだろ!放せ!」

男が私を鹿から引き剥がす
鹿はプルプルと震えている

「こんな怯えて…余程怖かったんだな…この女が…」

「震えてるのは多分脚が全部折れてるからよ」

「てめぇが折ったんだろ!」

一々煩い男だ

「…仕方ない ちょっとどきなさい」

「何だ?何しようってんだ?」

「その鹿を治すのよ 食べられないんじゃ脚折った意味無いからね…ルクィ」

ルクィを召喚し鹿を治すよう命令する

「治す?この大怪我をか?そんなすぐ治るわけ…」

「ハイ…終わりました それでは」

「嘘ぉっ!?」

男の驚愕と他所に鹿は普通に立ち上がった

「ご苦労様」

「ほ…本当に治ったのか?そ…それにさっきの化け物は!?」

「煩いわね…本当にちゃんと治ってるから安心しなさい それじゃ」

私はグウィンが調査を終えてないか確認に遺跡へ戻る

「…何だったんだ…一体…?」

男はしばらくの間呆然としていた





遺跡に戻るが誰も居ない まだ調査は終わってないようだ

「まだ戻ってないか…はぁ…お腹空いた…」

すぐ近くに転がってる大岩に座ってグウィンを待つ

「昨日から何も食べて無いわねー……ん?」

何やら騒がしい音が聞こえる
その音は少し機械的で動物達が発する音では無いのが明らかだ

(とりあえず隠れよう…)

遺跡に飛び乗り身を潜める
しばらくすると軍隊らしき者達が現れた
全員同じような鎧を着てガシャガシャと音を立てている

「まさかこの遺跡に棲んでるのか?」

先導していた一人の兵がそう呟く

(棲んでる…?何かの生き物を探してるのかしら?)

「解りません…調べに入りますか?」

「そう…だな…我が国の安全の為だ 遺跡の中も調べよう」

「了解」

(まずいな…こいつ等中に入る気みたいだ…中にはグウィンが居る…)
(この世界にとっても魔物達や夜魔族、屍狗族は化け物として見られるようだし…面倒な事になったわ)

どうしようか考えてる内に軍隊は全員遺跡の中へと入っていった

(…この遺跡を滅ぼすのは崩炉や覇斬を使えば簡単だけど…それは無駄な殺傷になるわね…)
(………見えない位置に居る魔物達は私の意思で消せるのかしら?)

初めて召喚した魔物に命令を下した時の事を思い出す
確かあのクヌムホーローを滅ぼした時…役目を終えた空龍を私の意思で消した筈だ
もし私の視界に居なくても私の意思で消せるなら今遺跡に居るグウィンの問題は無くなる

「試すしか無いわよね〜…」

グウィンに消えろと命令しすぐさまグウィンを召喚する
アムやグウィン等は襲牙や空龍達と違って複数体存在していない
だから今此処に召喚できれば遺跡にはもうグウィンは居ない事の証明となる

「ん?何だ主?まだ遺跡の調査は途中だったんだが…」

「調査は中止よ…さっき軍らしき集団が中に入ってね 面倒になりそうだから引き上げるの」

「なるほど…?じゃあ途中だが調査報告…中には誰も居なかった 使えそうな物も無し 以上だ」

報告を終えてグウィンは消えた

「ありがと じゃあ次の拠点に向かいましょうかねぇ…」

次の拠点は[ユーコモ]という国にある ユーコモは[ゴノイェ]の属国だ
かなりの距離があるが…フートゥヌみたいにまた門が閉まったりしないだろうな…

「間に合うと良いけど…空龍!」

なるべく低空飛行で見つからぬようユーコモへ急行した





ユーコモに無事到着 日が暮れ始めている

「まだ入国はできるみたいね…間に合った…」

早速入国する そして審査員に聞き込みをするといつもと違う返事が返ってきた

「あぁ…この二人なら我が国に滞在してますよ」

「本当っ!?…や、やっと見つけた…」

「次の方どうぞー」

早速拠点へ急行

(そういえばどうやって連れ出そうかしら?)

あの男達とルゥとシュウの二人組みの仲は
無関係な私を使ってでも捕らえようとする事から険悪だろう
さて…どうするか?

「はいはぁ〜い…どちらさまですかぁ〜…」

やたら耳に残る口調の男が出てきた
写真の顔と一致しているし十中八九こいつが『シュウ』だろう

「突然すみません 私は霊禍という者です シュウさんですよね?」

「いかにもそうですけどぉ〜…何用ですかぁ〜…?」

「ルゥさんは居ますか?」

「姉御に用ですかぁ〜…?今買出しに出掛けて留守ですねぇ〜…上がって待ちますかぁ?」

「あ、そうですか…では待たせてもらいます」

「ではどうぞ〜…汚いトコですけど勘弁してくださいねぇ〜…」

シュウに案内され私は二人組みの拠点へ入る




「とりあえずこれをどうぞ〜…」

お茶菓子を用意して貰い思わず目を見開く

(た、食べ物!)
「わっ…わざわざありがとうございます!」

空腹だったのですぐさまがっつく みっともない?言うな…

「…それで霊禍さんは何の用で我々に会いに来たんですかぁ〜…?」

「ふぉれふぁひのうひらいひゃれて」
(訳:それは昨日依頼されて)

「食べながら喋らないでくださいぃ〜…」

流石に失礼だよね…ごめんシュウさん…
ちゃんと口に含んでたものを飲み込み再度話す

「ゴホンッ!えっと…昨日依頼されて貴方方二人を連れてきて欲しいと」

「誰からですかぁ〜…?」

「え?…そういえば名乗って貰ってないわ…」

「…特徴とかは何かありませんかぁ〜…?」

「普通の男達だったわ…大勢居たけど皆特徴らしきものは何も…」

「今帰ったぞー」

突如女の声が聞こえた ルゥが帰ったのだろう

「あら?お客さん?珍しいわね…」

「姉御ぉ〜…実はですねぇ〜…」

シュウが早速事情説明する
と言っても話は始まったばかりだからそんなに説明は無かった
その後私に関して軽く聞いてきたので能力だけ隠して軽く話した

「ふ〜ん…ならまだ何も解って無いって事か…質問良い?」

ルゥが買い物袋から品物を棚等に保管しつつ聞いてきた

「まず…霊禍さんはどうやって国に?身分証明があるなら見せて欲しいな」

「これを渡されて…これを見せれば入国は可能だと」

私は二人に時計のバッチを見せる
それを見ると同時に二人は驚愕の表情を見せた

「…よりによってあいつ等かい…」

「まさか新人を使うとは思いませんでしたよぉ〜…」

あまり良くない反応…恐らくもう敵対しちゃってるだろうそんな雰囲気
見せなければ良かったか?しかし見せないと話が進まないし…

「あの…」

「悪いけどアンタに連れ出されるわけにはいかない」

ルゥは突然シュウの腕を掴み私の目の前から消えた

「な!?ど…何処に!?」

突如二人が消えた事に戸惑ってると今度は私が今居る拠点が崩れた
恐らく敵に侵入されてもすぐに逃げられるように工作していたのだろう
瓦礫が降りかかり私を襲う

「チィッ!」

即座に壁を出して身を守る

(何時でもその拠点を放棄できるようにしているという訳か…)
(いきなり消えたのはあの様子からしてルゥの能力…空間転移の能力かしら?)

拠点の崩壊が収まるまで壁で作った安全地帯で落ち着きを取り戻しつつ考える
ようやく崩壊が収まり瓦礫から這い出ると予想外な事に二人組みはすぐそこに居た

「げっ!」

無傷で出てきた私を見てルゥが驚愕する
それにしても「げっ!」って何よ…ちょっと傷付く…

「…てっきりもう会えないくらい逃げられたと思ってたんだけど…」

「た…退散!」

「待ってくださいよぉ〜姉御ぉ〜…!!」

一目散に逃げ出すが思いの他二人は逃げ足が遅かった
精々豹くらいだろう 人間にしては速い…が
生憎化け物師匠に鍛えられた私は難なく彼女達に追いつく事ができた

(速!?)
「くっ…そっちがその気ならこっちも容赦しないよっ!」

回り込まれたのにも関わらず怯まず私に銃を構えるルゥ
何か私よく銃口向けられるなぁ…もう撃たれるのはこりごりなんだけど…
気づけばシュウも同様に銃を向けている

「何を勘違いしてるか知らないけど私はただ貴女達を連れて来いと言われただけなの」
「貴女達を連れてこないと私はこの身を売られる…だからこっちも退けないわ」

まぁ身売りする事になってもその場合はいくら私でも流石に抵抗する
そうなればあの男達全員を倒す事になるだろう たった一人で倒せば脅威と見られる
なるべく私自身が脅威として見られるのは避けたい
もし脅威として見られればあの幻想郷の時と同じ末路になりかねない
今私が大人しくあの男達に従ってるのはそんな理由があった

「アンタは我が身可愛さに私達を売ろうとしてるのよ?」

「我々も命は大事ですぅ〜…わざわざ死にに行くような事はしたくないですぅ〜…」

だが二人にとってはそんな事知ったこっちゃ無い
抵抗するのは当然だ

「うっ…そ、それじゃ…どうしても行かないと言うわけね?」

「当たり前よ」

(………単純に考えれば私が犠牲になるか二人が私の犠牲になるかの話…か)
「………」

互いに沈黙し睨み合いが続く

「…わかった…もう貴女達に干渉しない…諦めるわ」

長い沈黙を破り 私は諦める旨を伝え構えを解いた
それと同時に二人も銃を下ろす

「はぁ………覚悟を決める時が来たみたいね…」

もう二人には用が無くなった為私は[カーミラ]へと戻る事にした
早速出国しあの男達と決着をつけようと去ろうとするとルゥから声がかかる

「ところでアンタ…さっきどうやって崩壊から難を逃れたんだい?」

「あっ…それは僕も思ってましたぁ〜…何をやったんですかぁ〜…?」

「単に能力を使って防いだだけよ…」

特に隠す必要は無いので正直に答える
まぁ詳細は話す必要は無いだろう 細かく話せば脅威として見られるだろうし
この二人から噂として私の能力が周知になるかもしれない
そこから危険因子として見られる恐れがあるから味方以外には話さないでおこう

「へぇ〜…能力ね…何の能力?」

「聞きたいなら一緒に来てくれる?」

「それは残念」

ルゥはあっけなく諦める 追求されないのは意外だったがありがたかった
早速出国準備に出ようとするとルゥ達も私についてくる…

「………何?」

「ん?いや私達も出国するんだよ 別の拠点に移らないと」

「その時計のバッチにはぁ〜…発信機もありますからねぇ〜…」

「そういえばそうだったわね…」

共にユーコモから出国し早々にルゥ達と別れるまで徒歩で移動する事になった
どうやらルゥ達も東へ向かうらしい
今居る此処[ユーコモ]は西の大国[ゴノイェ]の属国だから此処から北へ行こうにも南へ行こうにも
結局東へ進むのは当然な話なのだが…どうして私と一緒の道をこいつ等は進むのか
ちなみに[カーミラ]は東の大国[フェクマ]の属国で
大陸の反対側にあるから徒歩では時間が掛かりすぎる
どの道この二人は私に同行しないので期限日までにカーミラに着いても意味が無い
早々に男達との面倒を解決したくて空龍を使ってカーミラへ急行したいところだが…
二人に魔物達を使役できるのを見られたくは無いので召喚したくてもできない

「何でついてくるの?」

「旅は道連れって言うでしょ?」

「…じゃあ私が売られない為にも一緒に来てくれる?」

「それは嫌」

「…じゃあ貴女達は何処へ向かってるの?」

「霊禍さんと同じトコ」

「………は?」

これはどういう事だろう?
あろう事か目的地が私と同じという 余談だが私はルゥ達にカーミラへ向かってる事を伝えてない
なのに同じという事は私について行くという事
でも一緒には来ないという…意味がわからない…

「…何でついてくるの?」

「覚悟を決めるって事は返り討ちにするんでしょ?その見学」

ルゥがやたら爽やかな笑顔で答える

「私が向かってるトコはカーミラって国なんだけど?」

「そんな遠い所から来たの?ご苦労さんねぇ…」

「…依頼の期限は2週間で徒歩だとどうしても2週間以上掛かるんだけど?」

「じゃあアンタどうやって僅か1日で反対側まで来れたのよ?」

「ネミセトを通った直線経路でも6日は掛かりますねぇ〜…」

「うっ…それを知られたく無いから今私は徒歩なんだけど?」

繰り返すが私は魔物達を使役できる事を知られたくない
魔物達と私が関係してる事がバレれば過程はどうあれ私にとって良くない事になるだろう
今、興味本位で動いてるルゥ達には見せたくない

「なんだ…つれないわねぇ」

「はぁ…」

とりあえず徒歩で来た道を戻る
一周するように南へ進むルートでも良かったのだが
地図を見る限り南は大陸の内側付近が険しい道となっている
北ルートは寒いだけでそこまで険しくは無い

「…こうなりゃ海を横断するか?」

「ネミセトは禁域ですよぉ〜…?止めましょうよぉ〜…」

即座にシュウが反論する
ならついて来なければ良い話だが反論するという事はトコトンついてくるつもりらしい

「………本当について来るの?」

「だって面白そうじゃない」

「ついて来るんだったら私はあいつ等の望みどおり『連れて来た』って事になるけど?」

「その時は奴等が霊禍さんから私達を引き渡すよう要求するだろう」
「でも私達はそれに応えない そうなれば奴等は霊禍さんが裏切ったと思うだろう」
「つまり既に霊禍さんは奴等と対立する事になってるのさ」

「えぇ〜…」

それは困った 私は誰とも敵対するつもりは無かったのに
玄爺に言われた通り私はまず『普通に暮らす』事を指標としてたのに…

「というか何でそこまで私に興味があるのよ?」

ルゥに尋ねる こいつ等が来なければ少しはやりやすい…かもしれない
少なくとも先程ルゥが話したシナリオのように即敵対という展開にはならない筈だ
何となく二人は居ない方がややこしくならない気がする

「そうね〜最初はそこまで興味無かったけどすぐに興味が湧いてきたわ」
「拠点の崩壊から無傷で脱出したり私達の逃げ足に余裕で追いつくし」
「聞けば1日で大陸の反対側まで移動ときた 霊禍さんが普通じゃないからその分興味津々よ」

う〜ん…どうやらこうなってしまったのは私の自業自得らしい
普通を目指してたのに十分異常だったようだ
改めて思えば確かに普通じゃないな…また失敗しちゃったなぁ…

「はぁぁ〜…」

「そんな大きなため息吐かない 幸せが逃げるよ」

「もういいや…どうせ今更何言ってもついてくるんでしょ?なら一つ約束して」

「何かしら?」

「私に関して誰にも口外せず詮索もしない…そして邪魔しないで…いい?」

「あぁ良いよ 興味あると言っても信用まではしてないからね」

「………そう…まぁ約束を守ってくれるならもう良いわ…」

私は魔物達を召喚する準備に入る

「我が呼び声に応え…現れ出でよ…空龍!」

空龍を呼び出す
大きいので今更乗る人数が3人に増えようと呼び出す数は1体で良い
あまり多すぎると見つかって要らぬ被害を生みかねないし

「ほぇ〜…魔物使いかい?」

「強そうですねぇ〜…」

空龍を見上げ二人が感嘆の声をあげる

「さ、早く乗って 誰かに見つかる前に行きたい」

ルゥとシュウはまるで新しい玩具で遊ぶかのように楽しそうに空龍に乗る

「空龍…なるべく早く、かつ見つからないようにココへ…」

空龍に地図を見せカーミラへ向かうよう命令する

『了解した しっかり掴まっていろ』

3人を乗せた空龍は音も無くその場から飛び去りカーミラへと向かった





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あとがき

第二十五話終了

この世界は結構長く滞在するかもしれません パッチェさんとの合流はまだまだ先の話です
とりあえずぼのぼのな展開を書いてみたいですね 既に闘争フラグ立っちゃってるけど…
ずっと連続して殺伐とした展開じゃ禍たんの精神的な負担がやばいですし
少しでも平和を知ってくれないと『持ち上げて落とす』が出来なくなるからね〜w

23話を少し修正しました 男達の設定が固まってきて
借りたバッチが少し重要なアイテムになってきたので
ただのバッチから時計のバッチへと特徴がわかりやすくなりました

ルゥとシュウの二人組みはちょっと動かしにくいですね〜…性格もそうだけど口調がね
ルゥの口調が霊禍と似てるのでややこしいかもしれない
会話をする場合別の者が話す時は改行を挟むので
それで別々に話してるって判断できるんですけどわかりにくいですかね?
会話は大体こんな感じになってます↓

A「今日暇?」

B「暇〜どっか行こうか?」

A「そうだなぁ〜…海にでも行くか?」
A「どっか遊び行くなら他の連中も適当に呼ぼうぜ」

B「良いね〜そうしよう」

こんな感じで直前の「」の人物が違う場合は改行を、同じ場合は続けて書いてます
今更かもしれませんが複数人が話す時はこの改行の有無と口調等で誰が話してるか判断して下さいな
特に似た口調の人物(この話では霊禍とルゥ)が互いに話す場合はこの切替を意識すると良いかも?

さてさて…望みどおり平和な展開が作れるのでしょうか?
悲劇好きな私がそれを書けるとは思えないけど頑張りますわw

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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