東方輪廻殺
第二十六話 解散

カーミラの近くまで飛行したところで空龍から降りる

「ご苦労様 もう消えて良いよ」

『また何時でも呼ぶが良い』

空龍を消しカーミラへと向かう
ルゥとシュウも当然のように私についてくる

「はぁ…どうしようかなぁ…」

面倒な事になった…
男達が私に課した無理難題を一応の形で達成しているが
我が身可愛さに他人を犠牲にするのは良くないと思って一方的に引いたのだ つまりは失敗である
それを明かせば男達は私を売ろうと襲うだろう………あの時は流されて承諾してしまったが
考えてみれば向こうも一方的に私に罰を与えたんだし 抵抗するのは普通かもしれない
でもどうも抵抗するのは気が引ける…竜鬼族の城での生活の影響かな…

「………もしかして私って…天性のマゾヒストなのかしら…だったらやだな…」

「ん?何か言った?霊禍さん」

「何でも無い」

アレコレ考えてる内にカーミラへ到着
男達に連れられたあの薄暗い小屋に入るがやはり誰も居ない
今の時間帯は大体19時くらいだろうか?
ユーコモから飛び立った時は丁度日が暮れた頃だったし
約束の真昼までまだまだ時間がある

「…時間まで野宿になるか」

「え?野宿〜!?やだよ寒いじゃん」

即座にルゥから反論の声があがる

「大丈夫よ…此処はフートゥヌ程寒くは無いから問題無いわ 雪も降ってないしね」

フートゥヌでの野宿は酷かった 目覚めたら雪に埋もれて危うく死ぬ所だったし
幽玄師匠との修行が無かったらあっという間に凍死していただろう
………段々私も人間離れしてきてる気がするが多分気の所為と信じよう

「それに無理して私に付き合わなくて良いのよ?」
「貴女達はカーミラの宿で寝たら良いじゃない」

「…それだと奴等との決着を見逃すかもしれないじゃない」

「真昼までに戻れば良いわ それじゃ私は向こうの岩で寝るから…おやすみ」
「あぁ…何が何でも一緒に野宿するとか言うものなら」
「問答無用で貴女等をふん縛って奴等に引き渡すから そのつもりでよろしく」

そう言ってルゥ達と別れ小屋からやや離れた岩で横になる
何か言いたげだったようだが大人しく二人はカーミラへと入っていった
正直ルゥ達とはこのまま別れたい
余計な口を挟まれてこれ以上にややこしくなるのを避けたいのもあるし
何より少し一緒に居すぎた為邪気に蝕まれている恐れがある
桐生親子の二の舞にはしたくない

(さて…昼になったらどうするか…)
(不意打ちで男達を打ちのめすのも良いけどそれじゃあなぁ…)
(ま…その時になったら考えよう…)

そのまま考えるのを止めて眠りについた






「んっ…」

目が覚める まだ暗いが少し夜空が明るくなってきている
夜明けまでもう少しだろう

「ふぅ〜……さて……早いけど小屋で待つかぁ…」

軽くストレッチしつつ小屋へと向かう
小窓から中を覗くがやはり中には誰も居ない
入り口にもたれて静かに昼を待つ

「………………」

待っている間私は過去の事を思い浮かべ今までの失敗が何だったか考える
最初の世界では邪気による桐生親子の死が失敗だった
未だに私から出ている邪気は制御できない
玄爺曰く私の中で渦巻く禍根を抑えれば制御可能との事だが…
まぁ邪気に関しては能力共々いずれ何とかなる…と思う

第二の世界では何がいけなかったのだろう…?力不足が原因だったのか?
あの世界では殆ど何も解らず、何も知らずにリフに殺されたようなもの
気安く人を信じてはいけないという事なのかな…
しかしあれで信じてはいけないとなると誰を信じればいいのか…
この失敗は今後も繰り返しそうだな…

第三の世界でも力不足が原因だったと言えるかな?
思えばよく襲われる世界だったな
最終的に絶鬼と呼ばれる化け物に襲われて辛うじて逃げたんだっけ
そういえばクリェドゥスは何故絶鬼を知っていたんだろう?
あの化け物だけは他とは違う雰囲気があったが…
まぁいいか…もう二度と絶鬼には会う事は無いだろうし

第四の世界では後先考えずに殺しを行った事が失敗だったな…
一人殺せば次から次へと敵対者が増えて私は世界の敵となってしまった…
牢姫に言われなければあの世界を滅ぼし尽くしてただろう
あの世界には悪い事をしたなぁ…あそこの霊夢は今どうしてるだろうか?

第五の世界は何がいけなかったのか全く解らない
何やら最初から私は敵として認識されてた感じだったし
何より自己世界で寝た後の記憶が無い…何が原因で死んだのか…?

その後は気が付けば廃墟の世界に居た 第六の世界と言えるか?
そこで過去の私の死を見て…玄爺に出会った
玄爺に言われるがままに能力で世界から脱出したから失敗は無いと思う
あの世界にはもう行きたくないな また私自身が溶かされるのを見るかもしれないし

そして今…第七の世界へ玄爺の案内で来ている
失敗は何もしていないか?もう既に後戻り出来ない状況に陥っていないだろうか?
不安だ………とりあえず今後必要なのは力か…もっと強い力があれば……

「おっ…霊禍さん早いねぇ〜」

「ん?」

声が聞こえ気が付けばルゥとシュウがこちらへ向かって来ている
ちょっとだけ考え事していたつもりだけど大分時間は過ぎてたようだ

「寝坊するわけにはいかないしね」

「偉いですねぇ〜…姉御も早起きだと良かったんですけどねぇ〜…」

「煩いわよシュウ」

「…今何時か解る?」

私は時計を持ってないから二人に今の時間を聞く

「午前10時26分ですねぇ〜…」

シュウがやや小さめな腕時計を見て答える

「もうそんな時間だったのか…真昼までもう少しかぁ…」

「どれくらい前から待っていたんだい?」

「夜明けから」

「うげ…退屈じゃなかったのかい?」

「色々考えてたから…」

とは言え軽く過去を振り返っただけだし今後の事をどうするかは全く考えていない
どうするか…向こうの対応次第だから考えようが無いかもしれない…

「…結局どうするかはその時になってからか…」

そして真昼になり男達がやって来た



「よぉお嬢ちゃん 二日ぶりだな もう連れて来てくれたのか」

男達はルゥとシュウをちらりと見て私に話しかける

「………」

とりあえず男達がどう出るかを黙って待つ

「んじゃお嬢ちゃんのお仕置きは完了だな…ホラてめぇ等こっちへ来い」

ルゥとシュウの二人について来るよう指示するが当然二人は無視し

「やだ」

とルゥが拒否した

「どういう事だ?お嬢ちゃん?」

「あの二人は勝手について来ただけです」

「………じゃあ失敗か?どうやら本当に売られたいみたいだな」

「それは嫌 それにあの後気づいたの 貴方達の無理難題に付き合う必要は無いって」

「そうか…お嬢ちゃんを仲間にしてやろうと思ったのに…残念だよ」

次の瞬間男達が一斉に銃を出し私とルゥとシュウに向けて発砲する
私は銃弾を即座に回避し近い順に銃を奪い取る こういう素早い行動ができるのも修行の賜物だ
しかしいきなり発砲するとは思わなかった…ルゥとシュウは無事だろうか?
最寄の男を転ばせて奪った銃をそいつに構えつつ二人の安否を確かめる
どうやらこういった事に慣れているらしく二人とも無事だった

「っ!?お前…何者だ!?」

先程までお嬢ちゃん呼ばわりされてたのに急に呼称が変わったという事は
彼等はかなり驚いてる筈…今なら…

「動くな!下手な動きをすれば動いた奴とこいつを撃ち殺す!」
(あ〜…これで彼等とは完全に敵対しちゃったかな…)

「チッ…」

男達は大人しくなりルゥとシュウも構えていた銃を下ろす

「まずは質問がある お前達は何かの組織か何かか?」

コレは前から気になってた事だ
時計のバッチを見せた時のルゥ達の反応や先程の仲間にするという発言
単なるグループでは無い気がする…

「あぁそうだ…俺達の事を知らなかったとは…」
「俺達は「スカーレット・クロノス」という組織だ」

やはり組織だったか……しかしスカーレット……まさか…ね…

「どういう組織だ?」

「どういうものかって言われるとちと困るな…裏で世界を牛耳ってると言えば良いか?」
「警察に政府、チンピラやテロリストまで組織は関わっている」

思った以上に大きい組織のようだ
だから入国審査でバッチを見せるだけで簡単に通れたのか…?

「…では…何故さっき急に発砲した?私を売るつもりだったとしたら殺すのは不味いんじゃないの?」

「売ると一言で言っても色々あるのさ…臓器や血なんかが良い例だ」

なるほど…生死はもはや関係が無かったのか…危なかった…

「次、組織のボスはお前か?」

「そうだと本気で思うならお嬢ちゃんの目は節穴だな…俺は下っ端だ」

「ふん…それじゃあボスの所に案内しろ」

「それは無理だ ボスは毎日居場所を変えるからな ボスの場所は本人と側近しか知らねぇ」

まぁこれは期待してなかった事だ
次に彼等に色々要求する事にしよう

「……そうか じゃあ……金と食糧、そして各国の入国に必要な全てをよこせ」
(はぁ…これじゃ完全に私も賊ね…)

「ちっ…ほらよ…てめぇ等もお嬢ちゃんに持ち物渡せ」

若干唸りつつも金とパンが入った袋を放り投げる

「入国に必要なモノは?」

「生憎だがそれは金と違ってそうホイホイ作れるモンじゃねぇ」

「ならこの時計のバッチを貰う…お前達全員の分もだ」

時計のバッチがあれば入国が楽だったのでこの際貰う事にする
アムあたりに見せて発信機等を取り除けば追われる事も無くなるだろう
彼等のバッチも奪うのは発信機除去の際に壊れて使い物にならなくなった時用の保険だ

「〜〜っ!…わかったよ…ホラ」

彼等のバッチが放られる これで各国に好きに入国できる筈…
金と食糧と時計のバッチを全て回収する 後は…記憶をどうにかすれば…

(屍狗…聞こえる?相手を殺さずに特定の記憶だけ奪うような事とか出来ないかしら?)

私は自己世界に居る技のまとめを作ってくれたあの屍狗に呼びかけた

<はい、襲牙の雷撃ならば可能です>

(襲牙の雷撃ね…わかった ありがと)
「ではお前達…あの小屋の中に入れ…全員だ」

男達は命令通り動き始めた
私は数歩引き下がり男達全員が薄暗い小屋に入るのを待つ
全員が入ったところで私も小屋に入りルゥ達二人組みも後に続いた

「我が呼び声に応え…現れ出でよ…襲牙!」

「!!」

襲牙を呼び出す 急に大型の魔物が現れたからか男達は流石に驚きを隠せないみたいだ
ルゥとシュウも空龍の召喚を見たとは言えまだ慣れてないからかこちらも少し驚いている

「襲牙…彼等から私やお前達に関する全ての記憶を消して 殺しちゃダメよ?」

『了解』

命令を受けると同時に襲牙の口から雷撃が放たれる
男達は軽い悲鳴を上げつつ全員気絶した
ルゥとシュウが少し青ざめてる気がするが気の所為だろう

『終わったぞ』

「ご苦労様 もう消えて良いよ  空龍!」

襲牙を消して今度は空龍を呼び出す
気絶した男達が何時目覚めるか解らないので面倒になる前に離れる為だ

「ルゥ、そしてシュウ…私の事は約束通り口外禁止だからね?」
「口外したら…ちょっと痛い目にあわせて彼等と同じ末路を辿ってもらうから」

そう告げて空龍に飛び乗りカーミラから飛び去った

「ふふ……はっはっはっはっはっはっは」

霊禍が見えなくなったところでルゥが突然笑う

「どうしたんですかぁ〜…?姉御ぉ…」

「いや何、面白いじゃないか…たった一人であいつ等に喧嘩売ったんだ」
「どうなるか楽しみだねぇ…シュウ!しばらく仕事は無しだ 情報収集するよ」

ルゥは小屋の天井の隅にあるカメラを見てニヤリと笑った後シュウと共に小屋から出て行った




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あとがき

第二十六話終了 難産でした

とりあえず一区切りついた
ここからどう展開させていこうかな…
まぁここまで引っ張ってるからにはあっけなく終わるって結末にはならないと思う
でもどうなるかは私にもわからんw

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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