東方輪廻殺
第二十八話 依頼

「さて…と じゃあ今後の方針も粗方決まったわけだし行動開始といきましょ〜」

パッチェさんが伸びをしつつ席を立つ

「と…その前に…霊禍嬢…もう誰かに名乗ってたりしてないよね?」

「え?…どうだったかな…ルゥとシュウの二人には名乗った…かも?」

「あちゃ〜…良いか?霊禍嬢は狙われやすいんだから偽名くらいは使おうぜ」
「中には名前が解るだけで殺せてしまうような奴も居たりするからな 気をつけよう〜」

「そ…そうなの?…じゃあどうしよ…」

偽名…偽名かぁ…考えた事無かったな
でも確かに万が一の為の保身になったりするかな?
パッチェさんはどうなんだろ?聞いてみよう…

「アンタは…何か偽名使ってるの?」

「イエ〜ス 霊禍嬢の前では本名名乗ったけどね」
「普段時は偽名を使っているよん コレこの世界での我の身分証ね」

そう言ってパッチェさんは小さなカードを渡して見せてくれた
カードにはパッチェさんの顔写真と名前…『パチェナ・ネヴィースチル』とある
真名でも偽名でも『パッチェさん』という愛称は通じるし不自然じゃ無いな…
私に忠告するだけあってここらへんは流石だ

「結界張ったとき以外は我は我自身の事をソレに書いてある名前で言うから勘違いしないようにねー」

「解ったわ…それじゃ私は…どうしようかしら?というかその身分証何処で作ったの?」

入国には身分証明が必要だ
現在地[アークム]へ入るときはパッチェさんが居たから
私はその同伴という事で問題は無かったが…今後常にパッチェさんの同伴というわけにもいくまい…

「え?霊禍嬢身分証持ってないの?じゃあ作りに行くか そうじゃないとギルドを利用できんし」
「それじゃまずはあっち行かないといかんな………霊禍嬢偽名は決めたか?」

「偽名か…既にアンタから『霊禍嬢』って呼ばれてるしどうしようかな…」

「う〜ん…そうだな…『げろしゃぶ』なんてのはどうだ?」

「却下 ふざけてんの?」

「冗談だよw それじゃ…『レイカ・リフューズ』ってのはどうだ?」

「ん〜…それなら今まで通り『レイカ』と呼べるから問題無いか それで良いわ」

「よし…じゃあ結界解いて移動するぞ?何か我に聞きたい事とか無いよな?」

「うん…今のところは特に無い」

「よっし!行くぞぉ!」

私が席を立つのを見計らって店員さんが近づいてくる 会計だろう

「480Gになります」

「スカーレット・クロノスにツケといてくれ 我等は急いでるんでな」

そう言って支払いもせずスタコラと店を出るパッチェさん
慌てて私もそれに続く

「ありがとうございました〜」




「ちょっと…支払いは…アレで良かったの?てかアンタの奢りって話じゃ?」

小声でパッチェさんに話しかける
パッチェさんは周りを多少気にする素振りを見せつつ小声で答えた

「無駄な出費は抑えたい それに敵対勢力へのささやかな嫌がらせだ」
「安心しろ あの店から我々には絶対辿り着けない」
「有名な勢力故にああいう事ができるわけだ 可能ならどんどん先程のようにクロノスへツケさせる」

「…何気にゲスいわね…アンタ…」

「節約できて殆ど無意味であるが一応敵に攻撃できてる 一石二鳥じゃないか」

「まぁそれで良いわ…私はしばらくアンタ頼りだし…当分は文句言わないわよ」
「ところで…今何処に向かってるの?」

「身分証を作る為にお役所にだな 何…緊張する事は無い」

「こういうのは初めてだから緊張するなってのが無理な話よ…」

「え…初めて…だったのか…」

やや目を見開いてこちらを見るパッチェさん
何だ…その目は…

「何よその顔は…何故『初めて』を強調する…」

「いや…痛くて泣いちゃうんじゃないかなーって心配でね」

「え?…痛いの?」

「あぁ…もの凄く痛い…」

痛いのは嫌だ…身分証作るのって大変なのね…うぅ…怖い…

「う…ちょっと…怖くなってきた…だ…大丈夫…だよね?」

「解らんなー…本人次第だからなー…もしかしたらダメかも…」

「えぇ〜?…どうにかならないの?」

本人次第というなら失敗もありうる…散々痛い目にあって成果無しってのは避けたい
確実に成功させたい…!でなければ今後に影響が出る

「無駄話してる間に着いたぞ 覚悟は良いな?」

「う…うん…」

そして私は役所に入り壮絶な試練を乗り越え私は身分証明書の作成に成功した





…というわけでなく普通に書類にサインして写真撮っただけで他は役所の人が全て処理してくれた
痛いなんて事は全く無かった 勿論何の問題も無く私の身分証明書はあっという間に作られた
パッチェさん…騙したな…
流石にボロが出るのかスカーレット・クロノスにはツケずに料金はちゃんと払ってたが…

「ねぇ…全然痛いとかそんなの無かったんだけど?」

「当たり前だろ馬鹿じゃねーの?」

嘲笑しながら私を馬鹿にするパッチェさん 苛立つ…

「騙したのね!?」

「人聞きの悪い…冗談を言っただけだ」

「ぬぐぐ…お陰でちょっと写真の目付きが悪くなっちゃったじゃない」

「や〜いや〜い悪人面〜」

「うるさいうるさい!」

パッチェさんは写真を撮る直前に「滅茶苦茶痛いから我慢しろよ?叫ぶなんて目立つ行為は止めろよ?」
とか言ってきたので妙に強張ってしまい睨み顔になってしまったのだ
カメラの事は流石に某鴉天狗がよく使ってるので最初は警戒も何もしてなかったのだが
パッチェさんが「ここのカメラは本当にヤバイんだ…特別なんだ…」とか言うから…
信じた私がホント馬鹿みたい…

私の身分証はパッチェさん同様に偽名で登録してある
極力名前は出す事自体を控えるように言われ
どうしても出さなければならない場合は偽名を出せとしつこいぐらい言われた
パッチェさん曰く『イレイザー』に本名で殺せる能力者が本当に居るらしい
………嘘っぽいが信じることにしよう

「とりあえずこれで正式に国の出入りは可能になったというわけね…」

「ん?正式に…とは?」

そっか…パッチェさんでもまだ私が組織の部下達を一網打尽にしたのを知らないのかな?
この際だから話しておこう

「あぁ…パッチェさんでも知らなかったのか…私はむぐっ!?」

急に私の口を指で抑えるパッチェさん
同時に頭の中でパッチェさんの声が響く…これもパッチェさんの力なのだろう

<ストップ!それは公に聞こえても良い話なのか?>
<言ったはずだ…黒翼は最大の情報機関だと…>
<我等の会話含めそこら中の何気ない会話も奴等に聞かれてるんだぞ>

そこまで言ってゆっくりと指を離すパッチェさん

「…大丈夫よ でも確かに注意が足りなかったわ ごめんねパッチェさん」

でもさっき小声で話してた内容も結構危なげだったような気がするけど…
小声だったから大丈夫なのかな?まぁ良いや…
パッチェさんに目配せして結界を張るよう促す
ちゃんと気づいてくれたようで静かに不自然無く結界は張られた

「今結界を張った 好きにして良いぞ」

「ありがと そっちから話す場合はさっきみたいに念話で良いけど私からは出来ないからね…」
「えっとね…今まではこのバッチで入国してたの」

スカーレット・クロノスから奪った時計のバッチをパッチェさんに見せる

「それを持ってたのか…ふむ…」

しばらくバッチを観察し何かを考えるようにしながら私にバッチを返す

「このバッチを使ったのは奴等に捕まった後の話なんだけどね」
「それがあれば国を出入り出来たから…奴等から奪ったの」
「さっき正式にって言ったのはもうバッチを使わなくても良いなって思って言っただけよ」

「ふ〜ん…なるほどな…確かにもう向こうに顔が割れてる以上バッチによる入国は無理だっただろうな」

「今思ったんだけどさ…私手配されてる割には此処にもアッサリ入国できたよね?どうなってんの?」

「指名手配は昨日今日の話だからな…まだこの国には知られて無いのだろう」
「実際我が霊禍嬢の手配書を得たのは北西の大国[ウルキム]だからな 北の方は危ないだろうなぁ」

「北には行けないと?」

「危ないだけで行けないわけじゃない それにすぐにでも全国に手配書が回るさ」

「そっか…何処に居ても一緒かぁ」

「ま、連中との決着がつくまでは注意しておくんだな」

こうなったら早々に潰した方が楽なんじゃないか…?
いや…私はこの世界には全く詳しくない…何かしら兵器があるかもしれないし
こちらから出向くと色々厄介な事になるかもしれない
あの幻想郷で十分懲りたじゃないか…自ら戦地へ赴くなんてどうかしてる…

「パッチェさん…その決着なんだけど…どうケリをつけるつもりなの?」

なるべく…戦う事は避けたいが…

「手っ取り早いのはボスと幹部全員の暗殺だな」
「何者かに頭を潰されれば残った奴等は誰に矛を向ければ良いか解らないから何もできない」
「その上幹部までもが皆殺しなら下っ端共は勝手に散り散りになるさ」

「殺しはできればやりたくないんだけど…」

「ふ〜む…なら連中のほぼ全員を引き入れるのもアリだ」
「かなり難しいが殺しにはならない上戦力は純粋にコチラが増大し奴等は減少していく」
「単純だが馬鹿でも解る方法だ」

「おぉ…それなら賛成 でも相手のほぼ全員を裏切らせるなんて無理な話じゃないかな?」

相手は大組織 それをわざわざ裏切るなんて事は普通しないだろう
裏切っても安全が保証され、裏切る前より待遇が良くなければこちらに寝返る事なんて…

「相手によるが基本的に買収か脅しでいける」
「後先考えないような奴は大金積めば引き入れられるだろう だがこのタイプは大体役立たずだ」
「金で買えない奴はそいつの親身な奴を人質にして脅せば大体従ってくれる」
「しかしこの場合はコチラへの信用度は0だ 理想通りに働かず敵に情報を流すだろう」

「それって全然ダメじゃない…」

「人を増やすだけを目的とした場合だからな…役立つ奴を仲間にするには信用と時間が必要だ」
「だから早期決着を望むならこんな面倒な事をせず敵の頭を潰した方が楽で早い」
「まぁ今考える事ではない まずは金だ ホレ話をしてる間にギルドに着いたぞ」
「話はまた今度な 結界を解くぞ?」

話をしている最中にどうやら目的地に着いたらしい
適当にフラフラと移動してる感覚だったがパッチェさんがさりげなく導いてたようだ
しかし…言ってる事はもっともなんだけど…殺すのはやっぱり極力避けたいな
まぁどうやって決着つけるかは後で考えるとしよう…今はお仕事してお金稼ぎか

中は想像してたのと違って酒場みたいな所だった 役所のようなものだと思ってたが…
パッチェさんと話をした喫茶店と殆ど変わらない

「いらっしゃいませ」

「霊禍嬢…どの依頼受けようか?」

「私はよく解んないし パッチェさんに任せるわ」

「む………まぁ良いや…じゃこの『泥棒狩り』を請け負うか」

パッチェさんは掲示板に張られた依頼をしばらく選別した後『泥棒狩り』の依頼を選んだ
何でも数頭の鹿が盗まれたらしいから盗人の成敗と生きていれば鹿の奪還が依頼内容だ
既に依頼主は鹿の生存を諦めてるらしく盗人さえ懲らしめ捕まえればそれで良いみたい
成功報酬は1200Gで鹿の生還一頭につき500Gの追加報酬 鹿は全部で5頭
盗人の顔写真もあるので見つけられたらすぐに捕まえられそうだ………ん?この盗人…どこかで…

「どうだ?比較的簡単な依頼だ 2日前のものに関わらず誰も受けて無い」

「良いわ それにしましょう 懲らしめるだけで殺す必要は無いみたいだし」
「しかし写真があるのに何で捕まってないのかしら?不思議ね…」

「写真は大方『黒翼』が撮影したものだろうな」

「写真を撮る余裕があるなら依頼を受けてあげても良いと思うのにな」

「黒翼の連中は情報の売買だけで金には困らんからギルドの依頼は受けないんだ」
「何でも他の人から仕事を奪うのは良くないらしい だから依頼達成しやすいように情報だけを提供する」

情報の売買か…この場合ギルドが黒翼に情報料を払ってるんだろうなぁ

「じゃあマスターにコレ受諾する事伝えるから一緒に来い 次一人でも受けられるように軽いお勉強だ」

「はいはい」

私とパッチェさんはマスター…恐らく此処のギルドの支配人なのだろう その人の下へ向かう

「何か注文ですか?」

支配人がそっと飲食物のメニューを邪魔にならない程度に差し出す

「この依頼を請け負うから依頼主に取次ぎを頼む 金が無いから注文は無しだ」

「了解しました 少々お待ち下さい」

パッチェさんが持ってきた依頼の紙を持って奥へ引っ込む支配人…
多分依頼主に電話とかしてるんだろうか?

「依頼出してる以上確認するまでも無いと思うけどなー…」

「霊禍嬢…ギルドは各国に存在する…別所に同じ依頼を出してるかもしれないだろ?」
「それで既に解決済みだったり依頼主の気が変わってたりしてたらもう意味が無いんだ」
「依頼をキャンセル或いは達成された場合は頼んだギルドにそれを伝える義務があるが念入りにな」

「なるほどね〜…」

パッチェさんの話が終わると同時に支配人が奥から出てきた

「お待たせしました 任務期限は4日後まで」
「それまでに泥棒を捕まえたら依頼主の居る大陸北西の小国[キビー]に行くか此処へ戻って下さい」
「それではお気をつけて」

「よ〜し 出発じゃ!」

「初仕事…頑張らなきゃ…!」

私達は意気込みギルドから出た



「って勢い良く飛び出したは良いけど考えたら何処行けば良いのか分からないじゃない…」

私は早くもやる気が無くなっていた
捕まえるべき泥棒が何処にいるかは全く情報が無いのだ
4日で大陸全てをくまなく探すのは流石に魔物達を使わないと不可能だ

「安心しろ霊禍嬢 まずは依頼主が住む国の[キビー]へ向かう」
「そこから何か手がかりが得られるかもしれん」

「解った…でもさ…キビーって確か[ウルキム]の属国だよね?」

「ほぅ…よく知ってるな それで?」

「既にあの周辺って私が指名手配されてるわよね?」

「あぁそうだな…それで?」

「私行けなくない?」

「危ないだけで行けるから安心しろ」
「それに言った筈だ…いずれは全国で手配されると」

「捕まりたくなんか無いわよ?」

「捕まりそうになったら霊禍嬢を置いて逃げるから安心しろ」

「どこが安心できるのよ!ふざけないでよ!」

「捕まったら魔物大量召喚するなりして皆殺しにすれば良いだろ…」

ヤレヤレと言わんばかりの呆れ顔でため息混じりに言う

「それは…それだけは嫌なのよ!」

「じゃあ捕まるな…以上 という事でキビーへ向かうぞ」

「嫌だぁぁ〜……」

若干引きずられながら私達は[アークム]から出国した



「ようやく着いたな…」

キビー国内の広い公園に到着
パンパンと手に着いた埃を叩き落としながらパッチェさんが呟く

「うぅ…」

私は散々引きずられたので所々ボロボロだ 擦り傷で痛い…

「そんな汚い姿だと依頼主に失礼だぞ?」

「誰の所為でこうなったと思ってるの!?」

「はいはいワロスワロス さてと…」

パッチェさんは私を軽くあしらいつつ小型の通信機器をポケットから取り出す
あれが[キビー]へ来る途中に軽く説明してもらった携帯電話というやつだろう
元居た幻想郷の外の世界に蔓延っていたらしい便利な連絡手段と聞いた

「…誰に連絡するつもり?」

「黒翼だ…流石に我々だけでは色々と足りないからな」
「変にボロが出ないよう霊禍嬢は適当にそこらへんウロウロしておけ」

「…何で?私も付き添うわよ」

「言ったはずだ…黒翼との取引は我がやると 心配するな…すぐに済む事だ」

「ん…わかった…じゃあすぐそこで休んでるわよ…」

私は公園に設置された椅子に座り休む
パッチェさんの所に翼を生やした誰かが降りてきた
パッと見射命丸のような天狗のような容姿だが…天狗と翼人族の違いは何だろう?

(擦り傷は今の内に治しておくかな…ルクィ…)

<了解しました>

傷に手を当て少しだけ自己世界へと繋ぎ 小さな次元の扉(穴?)からルクィの治癒能力を発動させる
こうすれば一々ルクィを召喚せずに安全かつすぐに治せるのでこのやり方は便利だ
治療してる間に黒翼とのお話は済んだようでパッチェさんがこっちへ向かってきた

「話は終わったの?」

「あぁ…依頼主の家の場所も聞いてきた 早速行くぞ」

「はいはい…よっと」

私達は公園から出て依頼主の家へと向かった



「さて此処が…『泥棒狩り』の依頼主モブ君の家と愉快な仲間達だぁ!」

私達と依頼主の合わせて3人しか居ないのにどこかの誰かに向かってパッチェさんがざっと説明する

「む〜!!む〜!!」(訳:放せ!放せ!!)

「ねぇパッチェさん…」

「何だ?霊禍嬢」

「何で依頼主を拘束すんの?」

「おバカ!罠かも知れねぇだろ!」

「罠なわけ無いでしょ!?と…とりあえず解放してあげよ?」

「仕方ないな…」

ようやくおふざけが終わったようで依頼主の拘束を解く

「全く…いきなり拘束されるとは思わなかったぞ あと俺はモブなんて名じゃねぇ…」

若干キレつつ依頼主がグチグチと文句を言う

「すみません…うちのバカが勝手を…」

「前科を考えれば当然の仕打ちだ 謝る必要は無いぞ霊禍嬢」

「初対面なのに前科とかそんなのわかるわけないでしょうに…」

「大体俺に前科なんかねーよクソ魔女」

「はっはっは(笑) ご冗談を…さて…用件は何だ?」

「お前マジ何しに来たの?」

「スミマセン!スミマセン!」

パッチェさんの無礼を必死に謝る私 謝りに来たわけじゃないのに…

「まぁ良い…ギルドでも示した通りうちの鹿が盗まれてな「ざまぁっ!」…お前は黙れ」
「盗人を懲らしめて俺の前に差し出せば良い」
「鹿は…多分もう食われたか売られたか…とにかく生存は期待しちゃいないから気にしなくて良いぞ」

「はぁ…しかしその盗人の情報とかは…?」

「詳細情報は…防犯用のこのカメラのデータくらいだな…」

そう言って依頼主は小さな箱らしきものを提示してくれた
この中に情報があるのだろう ギルドに提示されてた顔写真とこの情報があれば上手くいくかも…

「なるほど…わかりました とりあえずこのデータを見ても良いですか?」

「勿論だ 役に立てるかは知らんが是非とも見てくれ」

今度はヘンテコな箱を提示してきた 多分先ほどの小さな箱はこの大きい箱を使って見れるのだろう
しかし使い方がわからない…河童とかなら解りそうだが…

「パッチェさん…使い方わかる?」

「当然だ 我を何だと思っている?言葉を慎みたまえ…君はラピュタ王の前に居るのだ…」

意味不明な事を言いつつ操作に取り掛かるパッチェさん 大きい箱に何かが映る
そこには鹿達が犯人に連れ去られてる映像があった
特に変わった点は無い…と思う 少なくとも私には普通に見えた ここから何か手がかりは…

「パッチェさん…何か解った?」

「逆に聞くが霊禍嬢は何が解ったんだ?」

「私?う〜ん…ただの盗人にしか見えなかったわ…」

「そうかそうか…じゃあ我が解った事を話そう」
「まず犯人は単独犯だ 小屋の形や影の具合を見る限り他の仲間らしきモノが見えん」
「何か指示を受けてる様子も無いし表情も『何か強制されている』感じの顔じゃなかった」
「次に鹿達が素直に犯人の言う事を聞く点から鹿達にとって身近な存在か動物を操る能力者か…」
「多分後者だと思うが…どちらにせよ鹿達は犯人を一切警戒していないのは確かだな」
「次に…コイツは防寒服を着てない ここら一帯は寒いのにも関わらずだ…」
「なので犯人の行き先…あるいはアジトはここから南方面か暖の取りやすいどっかの遺跡か…」
「仮に…だが、鹿が何かの取引材料なら南に逃げたのでなく取引の為に遺跡に向かったと見る」
「ここら辺の遺跡はもう調べつくされていて誰も立ち寄らないからな…取引場所には絶好の場所だろう」
「まぁこんなトコか…どっちへ向かえば良いかは黒翼の情報で判断しよう」

凄い…よく観察してるんだなぁ…私も見習わなきゃ…

「単なる推理・推測にすぎんがな…」
「ではモブ君…この犯人が知り合いだったり或いは心当たりとかはあるかね?」

パッチェさんが依頼主に聞くが首を振った

「なら能力者の可能性が高いな…とりあえず黒翼から情報を貰おう」

パッチェさんが再び通信機で黒翼を呼び出す
私と依頼主に待機するよう伝え家から出て行った

「………なんだあの魔女…やる時はやる奴なのか?」

「さぁ…私もパッチェさんとはまだ付き合い短くて…わからないです」

「あんな変人がパートナーじゃ疲れるだろうなぁ…同情するよ」

「ハハハ…」

何故か乾いた笑いしか出なかった





---スカーレット・クロノス アジト---

「まだ例の3人は見つからないわけ?」

ボスの側近である咲夜は苛立っていた

「も…申し訳ありません!今も一所懸命探しては居るのですが目撃情報どころか噂すら無く…」

部下がヘコヘコと謝罪混じりに報告する

「………黒翼の情報は?」

「全くありません…黒翼の情報網にも引っ掛からないとなると我々ではとても…」

「弱音吐くくらいなら探しなさい!!」

「は…はいぃぃっ!!」

「全く…」

慌てて走り去る部下を見送ってため息を吐きつつ資料を見る

「見つからない訳が無い…必ず居る…なのに何故…?」

「咲夜…何怒ってるのかしら?」

資料を睨んでいると突然声をかけられた

「お嬢様!?いえ…何でもありません」

「何でも無いならあんなに怒鳴らないでしょう?何があったの?」

「実はですね…我々の部下…下っ端ですがね…そりゃあもうコテンパンにされまして」
「下っ端と言えども我々に喧嘩を売ったも同然ですから落とし前とやらをつけようと」

「その喧嘩を売った輩がその写真の人と…」

「はい…なので捜索中ですが一向に尻尾を見せず逃げられ続けているわけでございます」

「ふ〜ん…」

話を聞いてボス…レミリアは資料を見る

「………」

「…お嬢様?」

「わかった…軍を動かしましょう…それでまだ見つけられなかったら…」

「………見つけられなかったら?」

「恐らく…共犯者が居て隠してるわね…泥棒二人組みの方は多分能力で逃げてると思う」
「どちらも軍が動けば手がかりくらいは見つかるでしょう…この話はそれからね」

「…解りました 部下に伝えておきます そして申し訳ありません」

「どうして謝るのかしら?」

「このような失態はお嬢様の手を煩わせずに済ませたかったのですが…結局…」

「良いのよ気にしないで…最近退屈だったし…丁度いい暇潰しになるわ」

「そうですか…」

気にするなと言われたのにも関わらず咲夜は落ち込んだまま棒立ちになっている

「退屈だと刺激が必要なのよ……ところで…お腹が空いたのだけれど?」

「す…すぐに用意します!」

咲夜は報告に来た部下と同じように慌ててボスの部屋から走り去った







「というわけで霊禍嬢!犯人はやっぱ遺跡に行ったらしい 早速滅殺しようず!」

「は?」

思わず気の抜けた返事をしてしまった…いや返事とは言えないか…

「だから〜もう追い詰めたも同然だからとっととこのクソつまんねー依頼を終わらせようやって話だ」

「いや待って?まだ依頼主さんの家から出ても居ないのに何で追い詰めたとか言っちゃってるわけ?」

「ふっ…パッチェさんを甘く見るなよ?」

「いやだからね?ちゃんと私にも解るように説明してくれる?」
「ほら依頼主さんも唐突すぎて顔が( ゚д゚)になってるわよ」

「モブ君その間抜け面やべぇwwwwプゲラwww」

「だからモブじゃねぇって言ってんだよ!」

「良いよモブ君で…どうせお前この話終わったら出番無いもん」

「そんなメタ発言で大丈夫か?」

「大丈夫だ…問題ない」

「何してんの?パッチェさんはともかく依頼主さんまで…」

漫才してる場合なのか?やっぱりパッチェさんの変なノリには付いていけない…

「じゃあ霊禍嬢でも解る説明でここまでの経緯を説明しよう」

何かバカにされてる気がする…けど我慢我慢

「まず黒翼から情報を聞きます(有料)」
「犯人の行き先が解ったので我の魔術で覗き見します」
「不意打ちで束縛してハイ完成!後は身動き取れない犯人(笑)を回収して始末するだけ!やったね!」

説明が終わると共にパンパカパーン♪と何処からか楽しげな音が鳴り響く

「質問」

「何かなモブ君」

「黒翼から何を聞いたんだ?」

「鹿の小屋から犯人がどこの方角へ向かったかとその他色々」

その他色々って何を聞いたんだろ…

「次、魔術とは?」

「魔法です」

「魔法とは何ですか?」

「魔術です」

ループしてるんですけど…てか漫才すんな…

「…次、どうやって束縛したんだ?」

「魔術で」

答えになってないよパッチェさん…

「最後、その魔術とやらですぐ回収はできなかったのか?」

「できるけど霊禍嬢が運動不足なので歩いて回収するハメになりました死ね」

「え?…原因私なの!?」

「Exactly!!!(その通りでございます!!!)」

「そ…そんな…ごめんなさい依頼主さん…私の所為で…私の…所為で……うぅ…」

「泣くな霊禍嬢…ほら…犯人連れてきてやったぞ?」

「「えっ?」」

私と依頼主さんが思わず聞き返す

「聞こえなかったのか?もうこの依頼は終わったも同然だ…そこに居るだろ?」

パッチェさんが外へ指差すとそこには簀巻きにされた犯人(?)が蠢いていた
顔を見れば…映像の人物と一致する…確かに犯人のようだ
それに気が付けば空の小屋だった筈なのに鹿が普通に寛いでいた
此処までやれば誰が見ても万事解決と言えるだろう

「歩いて回収しに行くんじゃなかったの?」

「我がそんな面倒で非効率な事を本気でやるとでも思ったのかね?この阿呆が…」

「………何の為に此処に来たんだろう?」

あまりにもあっけなくしかも私は何もしてないのに仕事が終わってしまい呆然としてしまった

「いくらなんでも急展開すぎない?こんなんで大丈夫なの?」

「無論…モブ君から金を巻き上げる為だ…それに我々は忙しい!」
「さぁ報酬をよこせ…それも一つや二つじゃない…全部だ!!」

「………展開早すぎる上納得いかないが依頼は依頼だ…ちゃんと払ってやるよ」

「毎度有り〜」

「もう二度と来るなよ」

「それはこっちのセリフだ…」

「何でそんな事言うの!?パッチェさん!」

依頼主さんはもの凄く不満そうな表情をしていたが
依頼達成報酬、1200Gに加え鹿の全生還で追加2500G 合計3700Gの報酬を頂き[キビー]を後にした





「そういえばパッチェさん…」

「何じゃいワレェ!」

(何故不機嫌!?)
「黒翼の情報って有料なのよね?報酬受け取る前はそのお金どこから?」

「そんな事か…クロノスにツケといただけだが?」

「………向こうにバレるんじゃないの?」

「安心しろ…絶対にバレないから…我を甘く見るなよ…」

「…信用して良いのね?」

「勿論さぁ! ではこの金でボロ小屋なら3,4は建てられるから家作り始めるか」

そういえば住む場所が無いんだった…ちゃんと考えてくれてたのか

「大陸の東西南北にそれぞれ一つずつ建てよう 霊禍嬢の能力なら距離関係なしに行き来できるだろ?」

「一応できるけど…あんまり能力は使いたくないのよね それに他言しないでよ?」

まだまだ自分の能力はどこまで出来るかわかんないし…下手に使って過去の過ちを犯したくない
今まで気軽に使ってその結果があのザマだ…
幸い今は師匠のおかげで能力無しでもそこそこ戦える
よほどの事が無い限り何とかなるだろう…

「ダメダメ!能力はガンガン使って貰わないと…これは修行の一つなんだよ?」

「修行…?」

「もう忘れたのか?我は霊禍嬢を鍛えてくれと頼まれたからこうして会いに来てるわけなんだが?」

「あ…あぁそうだったわね…忘れてた」

「我は魔術等の専門 幽君みたいに格闘専門家じゃないから修行方法も大きく変わるよ」
「なので我の言う事はなるべく聞いてもらいたい 勿論拒否権はあるからなるべくで良い」

「拒否権あるんだ…」

「無理矢理シテ欲しかったのか?エロいな〜」

「何言ってんのよ!?ほ…ホラ!早く行くわよ」

「行くって何処に?」

「え?えっと…えっと……」

「解らないのかよ だっせぇww」

「う…うるさ〜い!!」

からかわれて真っ赤になってしまったが
何処か嬉しい気持ちになった
久々に「楽しい」という感情になれたな…





TOPへ 前話 次話
あとがき

第二十八話終了

リフューズはまんまrefuseです 意味は断る,拒絶する,否定する
そしてごみ,くず,廃物等の意味を持ちます 霊禍は勿論意味なんて知らないので知らぬが仏状態ですw
否定された者としてなのかそれとも否定するべき者だからか
パッチェさんがどちらの意図でrefuseを偽名として名乗らせたかは想像にお任せします

依頼前後の話は難産でした いやね…依頼内容決めたは良いけどちとつまらなすぎたんでね
パッチェさんのスーパーマジカルパワーであっという間に終わらせておきました
やっぱモブキャラとグダグダ喋るよりパッチェさんが喋ったほうが楽しく進むってもんですよ
でも今回のように魔法で即解決を繰り返すとパッチェさんがデウス・エクス・マキナになりかねんので
そうならんよう展開していきたいと思います

今回で幾つかフラグの回収と設置をしたが全部回収できるかしらねぇ…そういうの苦手だけど頑張るよ!
この世界はどう終わらせようかなぁ…一応頭の中では一つあるけど
その後展開がちと難しいのでまぁ適当にボチボチやります

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


TOPへ 前話 次話
inserted by FC2 system