東方輪廻殺
第三十話 解放

雑草すら生えていない岩山へ牢姫達が降り立つ
無事に世界の転移を終え幽玄が質問をする

「それで…何の目的で異世界へ?既に術師の協力は得られたというのに…」

「霊禍を鍛える術師はまだ必要って事 パッチェさんだけじゃまだ足りない」
「能力があまりにも強力だからね しっかり制御できるようにどんどん鍛えないと」

牢姫が答える

「一言鍛えると言っても師によって大分変わるからな」
「肉体関連ではお前が師事してなければああはならなかっただろう」

付け加えるようにクリェドゥスが話す

「ふむ…ではまだ術師の探索を続けると?」

「そういう事だな パチュリーが行った霊禍が居る世界にも優秀な術師が居るのを感じた」
「一応そいつの手がかりを渡しておいたが…確実に仲間になるとは限らんな」
「だから仲間をもっと増やす為に探索を続ける」

「それでお兄ちゃん…この世界には居る?」

「待て…今見てみる…」

牢姫に解明を促され何処か遠くを眺めながらクリェドゥスは集中する

「ふむ…一応…居る…仲間にはならなそうだが…」

「ならないわけじゃ無いでしょ?早速行こうよ 面倒事になったら幽玄よろしくー」

「私は用心棒では無いし使いっぱしりでも無いんですがね…」

早速候補を見つけ3人は飛び立った





「ここだ」

クリェドゥスの案内により辿り着いた目的地はその世界にとって禁域とされている場所だった
いくつもの巨大な石柱が杭のように地面に刺さっており規則的にならんでいる
まるで何かの魔方陣を描くように綺麗に並びそして威圧していた
その数多の石柱の円には草木一本生えておらず虫すら居ない
一番外側の石柱から外には普通の草原が広がってるのに
ここだけぽっかりと穴が開いたようだった そしてそのど真ん中に銀で出来た棺があった

「これは…一体?」

異様な雰囲気を出す銀の棺と石柱に冷や汗を流しつつ幽玄が質問する

「封印だな ちょっと待ってろ この封印されし存在の過去を解明してみる…」

クリェドゥスが質問に答えつつ銀の棺に手を当てる
余程近づかないと見えづらいのだろう 目を瞑り集中を始めた

「この封印…結構きついね…影の維持で精一杯だ…」

牢姫がやや苦しそうに言う どこかしら動きが鈍い
封印が強すぎて聖域と化してるようだった

「ふむ…私は何ともありませんが…確かにここら一帯は清らかすぎて吐き気を催しますね」
「しかもこの数多の石柱も…ただの石柱ではない…聖なる力とそして命の流れを感じます」

「命の流れ?つまりこの石柱は生きてるって事かい?」

「いえ…この石柱自体には魂が感じられないので生きてはいませんね」
「命の流れは強力な聖の力を封印に繋ぎ止める為だけにあると感じられます」
「恐らく…この石柱を造る為に誰かが生贄になったかと」

「それが本当なら…この沢山の石柱の数だけ生贄が出たって事?酷い事するなぁ…」

牢姫が嫌だねぇと言わんばかりに呆れる

「しかもただの生贄では無い…かなり強い力を持つ者がそれぞれ贄となってるみたいですね」

石柱を調べながら幽玄が話す
一つ一つ調べてみるがどれも共通しているみたいだった

「じゃあ何?たった一つの脅威を封じる為だけにこれだけの犠牲を?これは期待できそうだね」

「手に負えなければ本末転倒だと思いますが…」

かなりの実力者である事を予見し喜ぶ牢姫を尻目に幽玄が呆れる
そして解明を終えたのかクリェドゥスが二人の許へ戻ってきた

「お兄ちゃん…何がわかった?」

「そうだな…どこから話そうか…」

クリェドゥスが頭を抱えて悩む

「まだ生きてるんでしょ?説得の為にも詳しく知りたい 最初からで良いよ」

「ではなるべく簡潔になるよう最初から話そう…」



封印されている存在は人間の娘で戦争真っ只中の時に生まれた
こいつの両親は二人とも一、二を争う程優秀な魔術師で
その二人の娘は信じられない程の力を宿して生まれた
両親は娘に期待し己が持つ最高の術を用いて娘を強化した
産まれたばかりの赤子にも関わらず次々と術をかけその娘はすぐさま人間の域を大きく超越した
全ては戦争に勝つために…両親は娘に「ニケ」と名付け神話に登場する勝利の神と同じ名を与えた
一日…一刻たりとも休む事無く強化魔術を掛け続けられたニケが言葉を解するまでに成長した頃には
すでに滅亡寸前の所までニケと両親の属する国は負けていた
そして早い段階ではあったが生後7ヶ月のニケを戦力として戦争に投入
覚えたばかりの魔術で敵を一瞬で殲滅し両親の期待に応えた

生後1年を越え、早くも自我を持ち己の意思で活動できるようになったニケは
強大な戦力として認められ両親と共に戦争に勝ち続けた
しかし両親がついに戦死しニケは暴走 国の命令を聞かずに他国全てを滅ぼし気が済むまで暴れまわった
自国を滅ぼさなかったのは両親を想っての事だった

瞬く間に戦争が終結しただの戦争孤児ではないニケは国に慎重かつ丁重に引き取られた
満たされぬ毎日を送りながらニケは成長していたが国は違った
何時また暴走するかわからずかつニケを止める術が何も無い国は暗殺の手段を模索していた
また、生きる伝説となったニケは名を出すだけで畏れられるのを嫌い
新たに「アリス」という偽名で生きることを決めた
この名を出すと同時に今までの境遇も忘れ去ろうとし待遇も一般人と同じになるよう志願した
そして両親健在の間に叩き込まれた戦いと生きる為の知識を応用して術の開発に手を出す
一般と同等になっても国の監視が止まらなかった為、国の為と称して強力な術を開発していった
不老不死の術までも開発し永遠の存在となったニケに国は大変恐怖しついに暗殺が決行される事になる

最初から殺すことは不可能と判断していた国は予定通りニケを封印するという手段を取った
しかし十二分に知識を得て成長したニケはそう簡単に封印できない
そこで国はニケが十分成長したら棺に入って強化術を受けるように両親から頼まれたと嘘を吐いた
両親の頼みという事で疑いもせずニケは封印された
しかし封印されても意識だけはしばらくそのままだった
すぐに強化術というのは嘘だと理解し国を心底怨んだ やがて封印されても術を行使できるようになった
それから棺に近づく存在を支配し国に復讐し続けた
国も黙ってはおらず封印を強化する為に何人も犠牲にした
そしてようやく今の封印が完成しニケは完全に沈黙
皮肉な事に決め手となった封印術はニケが開発したものだった
封印完成から数百…数千年が過ぎてニケはついに諦め 永い眠りについた


「…そして今に至る…と」

長い過去話を聞き終わり牢姫が呟く

「あぁ…封印が解かれる事はもう無いと諦めてるようだ」

クリェドゥスが銀の棺を優しく撫でながら解明したニケの思考を話す

「強固な封印なら解けないのでは?」

「ところが違うんだよ幽玄…封印というのは封印されし存在に対して強く働くものが多くてな」
「この封印もそれと同様だった つまり外からなら簡単に解放できるんだ」

幽玄の問いにクリェドゥスが心配無用と言わんばかりに答える

「では…解放するつもりなんですか?」

「当然 その為に此処に来て過去話を聞いたんだから」
「それでお兄ちゃん…解放するにはどうすればいいの?」

「石柱を全て破壊すれば棺の封印が緩まるからその後棺を開ければ良い それだけだ」

「石柱の破壊ですか…厄介ですよ?」

クリェドゥスが言う解放手段を聞いて幽玄が口を挟む

「? 何で厄介なの?」

牢姫が首を傾げる

「この石柱…どうも攻撃を分散する結界が張られているようです」
「石柱一つを破壊できる攻撃は他の石柱へとダメージを分散し破壊を無効化するみたいですね」
「さらにあまりに威力の大きい攻撃に対しては石柱が形作る魔方陣がそれを無効にします」
「つい先ほどとっとと封印を解放しようと破壊しようとしましたが傷つけられなかった事から確かかと」

「何だ?せっかちだな…それにそういう事をする前に我々にちゃんと話してからやれ」

クリェドゥスが軽く注意する

「じゃあどうすれば良いの?」

「全ての石柱を全く同時にかつ全く同じ威力で魔方陣が発動しない範疇の攻撃をしなければなりません」
「私は複数の的に同時攻撃する事はできないのでお二人のどちらかができなければ解放できません」

「なーんだ そういう事なら私の出番だね」

牢姫が問題ないと言って封印からやや離れる
それに続くようにクリェドゥスも離れ 幽玄もそれに続いた

「何をするつもりですか?」

「私の影は団体だからこそ強いのさ」

牢姫が手を合わせ力を込める
すると次々と影が立体化していきあっという間に影の軍団ができあがった
それぞれの影が石柱の前に立つ

「この影は全てが私…タイミングを合わせるのも力加減も完璧にできる」

牢姫がパチンと指を鳴らすと同時に全ての石柱が破壊された

「こんな事ができたのですか…これなら確かに何も問題はありませんでしたね」

幽玄が感心しつつも崩れ去る石柱を眺める

「そういや能力の説明はロクにしてなかったね 私は過去を映すだけじゃ無くこういう事もできるのさ」

「次は棺だな いよいよご対面だぞ」

クリェドゥスが颯爽と棺に近づき二人を見る
牢姫と幽玄が頷くとゆっくりと封印の棺が開かれた
そこには黒を基調とした服と白く輝く髪の少女が眠っていた
クリェドゥスがニケを揺り動かして起こそうとする
そしてゆっくりと目を開き むくりと起き上がる
辺りを見回した後眠そうな目で3人を睨む

「………××××××…?」

何かを言ったが意味が解らなかった
言葉が通じないと意思疎通ができない
しかもやや怒ってる感じの声色だった 良くは思われて無いかもしれない
牢姫達は早々に困り果てた…が

「××××××××××××××…××××××××、××××××××××××××××」
(我々はお前の封印を解いた者だ…俺はクリェドゥス、この黒いのが牢姫でこっちが幽玄だ)

クリェドゥスが早々に返事をする こういう時、彼の解明の能力は非常に役に立つのだ
問題なく意思疎通できそうなので牢姫と幽玄は一歩引き下がった
逆にクリェドゥスは彼女に近づく

「××××××××××××××…××××××××××××××××××××」
「×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××」
「×…××××××××××…××××××××××××××××××××××××××?」
(すまないがコレを飲んで欲しい…我々がよく使う言葉を理解できるようになる)
(俺は自分自身の特殊能力で何とかお前の言葉が解るがこの二人には理解できないんでな)
(何…毒は無いから安心しろ…お前も封印をわざわざ解いた我々の目的が知りたいだろう?)

クリェドゥスがカプセル状の薬を渡す
数多の世界を渡ってきた経験から言葉の壁の問題は既に解決法が解っている
ニケは薬を受け取るとクリェドゥスをしばらく見た後に薬を飲んでくれた

「……これで…良いのか?」

「あぁ…バッチリだ」

ニケが今度は聞きなれた言葉で話す それを聞いてクリェドゥスが笑顔で答えた

「さっき飲ませたのは翻訳錠でな あらゆる言葉を理解する事ができる俺の特製だ」
「副作用としてどんな種族…虫けらや動物の声も理解できてしまうがそこは勘弁してくれ」

「問題ない…それで改めて聞くが…お前等は何だ?」

ニケが睨みつつ質問する

「わ…私の名前は焔 牢姫!こっちがクリェドゥスでこっちが幽玄 大丈夫…私達は敵じゃないよ」

「よろしくお願いします」

牢姫が慌てたように自己紹介をし幽玄が頭を下げ礼をする

「私の名はアリス…真名は違うがそう呼んで欲しい」
「…お前等の名は既に聞いている 質問が悪かったな…何の用だ?」

面倒くさそうに頭を掻きつつ質問を繰り返す

「あぁ…単刀直入に言うと協力して欲しいんだよ」

「…協力?」

「うん…私の友達を…鍛えて…助けてあげて欲しいんだ」

「断る…と言いたいところだが封印を解いてくれた恩もある…良いだろう」

「本当かい?それは良かった よろしくね」

牢姫が握手を求め手を差し出す…がアリスは差し出された手を見るだけだった

「……(汗) 何か…不満かな?」

「私は弱い奴に従うつもりは無いんでね カンを取り戻す為にもお前等と戦ってみたい」

ようやく棺から出て戦いたいと3人に言い放つ
それを聞いた牢姫は腕を下げクリェドゥスと幽玄を見る

「じゃあ幽玄 君の出番だ よろしく」

「何故私が?」

「今回特に何も仕事してないでしょ?」

ポンと肩に手を置き任せたよと言わんばかりの物言いだ

「…仕方有りませんね では私がお相手しましょう」

「一応…互いに殺しは無しにしてくれよ?ではこの小石が地面に落ちたらそれが合図だ」

クリェドゥスが軽く注意をして小石を上に放り投げる
アリスと幽玄は互いに睨み合う

小石が落ちると同時に幽玄がアリスの背後に回り込み攻撃を仕掛ける
しかし解ってたかのように攻撃を回避し幽玄にカウンターを放つ
それを軽く受け流し攻撃を仕掛けようとするが距離を取られて最初の睨み合いに戻った

「やるな…お前……名は?」

「2度程紹介されましたが…覚えてくれてなかったんですね…幽玄です」

「ハッ!」

幽玄が答えてる最中に火の弾を不意打ち気味に放つ
しかし全く驚きもせず火の弾を受け流し処理しそれも解ってたかのように今度は氷の槍を投げつける
当然これも避けてアリスに一気に近づく

「答えてる最中に攻撃とは失礼ですね!」

「戦いに礼儀など要らないんだよ……!」

雷で出来た槍を構え幽玄の接近に備える
槍の射程に入り高速で振り回すが幽玄には当たらなかった
大振りの攻撃を避け幽玄がカウンターを入れる アリスが大きく吹っ飛んだ

「ぐぅっ…!」

「永らく封印されていたからか攻撃に隙が多いですよ?」
(手ごたえはあった…が…何か嫌な予感がしますね…)

「フッ…言ってくれる…」

ニヤリと含み笑いをしながら起き上がり腕を振るって針を飛ばす
当然見え見えの攻撃なので難なく避けた

「ハッ!」

今度は大きく腕を振り下ろす すると幽玄の頭上から巨大な鉄の塊が降りかかる
だがこれも驚きもせず避けつつアリスへと近づく

「ハッ!」

腕を突き出し風の弾を放つ 不可視の攻撃だ
これも今までの攻撃同様問題なく避ける

「シッ!」

腕を払い電撃の鞭が薙ぐように襲い掛かる
そしてもう一方の腕を振り上げ幽玄の頭上から溶岩が降ってきた

「無駄です!」

幽玄が両腕を構えるとその腕に触れる前に電撃と溶岩が停止する
アリスは何故攻撃が止まったのかは理解できなかったが
効かない事だけは解りすぐさま次の攻撃へ移った

「カァッ!」

何かを強く握る動作をすると幽玄が居る位置が爆発する
同時に地面に手をつき防護壁を纏った
その防護壁が展開されると同時に幽玄の攻撃が防がれた

「もう少しでしたが…ふむ」

「ハッ!」

アリスがパンッと手を叩くと防護壁から電撃が展開された
流石に近づけず距離を取る事で避ける

「………」
(数多の戦争を制した魔法使いがこの程度のわけが無い筈ですが…)

「これも避けるか…これは本気で相手をした方が良さそうかな……お前……名は?」

本格的に興味を持ったのか再び名を聞くアリス

「覚える気あるんですかね?幽玄です」

若干呆れつつ再度接近する しかしここでアリスが不適に笑い…そして

「フフッ…掛かったな…『呪いの問答(カーズド・アンサー)!』」

何かの術の宣言と共に幽玄の動きが止まる
ここにきて初めて苦しそうな表情を顔に出す幽玄 動けないようだ

「これで詰みだ…中々楽しかったぞ」

勝ち誇り堂々と幽玄に近づくアリス そんなアリスを前にしても幽玄は何も出来なかった

「こ…れは?どういう事です?」

「説明が必要か?なら答えてやろう」
「私が発動した呪術『呪いの問答(カーズド・アンサー)』によりお前は私の支配下になった」
「もう私の指示一つでお前という存在を好き勝手にできるわけだ 勝負有りだな」

ここでアリスがパチンと指を鳴らすと幽玄の両腕と両脚が唐突に折れ幽玄は倒れた
誰が見ても幽玄が負けたのが明らかだった

「『呪いの問答(カーズド・アンサー)』の発動条件は極めて単純だ 私が定めた問いを呪いの言葉としてセットする」
「その第一の問いに返事すれば準備完了 次からこの問いは呪いの質問とされるわけだ」
「その呪いの質問に再度お前等が何かしら反応すれば発動だ 呪いに掛かった全ての存在は支配される」
「今回私が定めた呪いの質問は『お前……名は?』だ ご丁寧に答えた所為で引っ掛かったわけだな」

「くっ…なるほど…本命はこういった呪術で戦闘で使った魔法は小手調べというわけですか」

「そうなるな…さて次だ…」

再度指を鳴らすと折れた幽玄の手足が元に戻る

「高みの見物をしているお前等二人も相手してもらおうか」



「ありゃりゃ…幽玄が負けるとは思わなかった じゃあ今度は私が相手をするよ」

牢姫が前に出て入れ替わるように幽玄がクリェドゥスの隣に立つ

「意外とあっさりやられたなw」

クリェドゥスがカラカラと笑いながら幽玄をからかう

「まぁ何かしらあるとは思ってましたよ」

特に悔しがる様子を見せる事無く涼しげに答える

「さて…じゃあ俺も頑張るかねぇ…」

「まだ牢姫との戦闘が始まってすらいませんが?」

準備運動を始めたクリェドゥスに疑問を抱き質問する

「牢姫はすぐ負けるさ」

牢姫はすぐに敗北するとカラカラと笑いながらクリェドゥスは運動を続けた



「もう…聞こえてるってのお兄ちゃん…」

若干むくれつつアリスと対峙する牢姫 そしてアリスが牢姫を睨みつつ質問してきた

「その黒き姿…先ほどから気になっていたが…何だ?」

「答えなきゃダメかい?」

「答えてくれればお前の情報が少し解るだろ?」

「じゃあ答えない ヒントは無しだよ」

「ふん…」

そこまで話して急に牢姫に鉄の塊が降りかかり見事に牢姫に命中した

「不意打ちなんて無駄無駄w」

しかしその鉄の塊から出てくるように牢姫が出てくる
牢姫だけでなく影の兵達も一緒に出てきて一斉にアリスに詰め寄った

「ふっ…」

突然眩い光が発せられた 影達の動きが止まる

「っ!?目晦ましか!?」

「よし…『混乱する愚者(コンフューズ・ザ・フール)!』」

またも何かしらの術を発動するが牢姫には効果が無いようで
行動不能どころか何も実害は無かった

「…何の術かは知らないけど無駄だったみたいだねぇっ!」

影に指示を出し再度攻撃をするがアリスは慌てる事無く別の術を発動した

「………『失われし人形(ロスト・パペット)』」

術の宣言と共に影全てが停止する 牢姫も動けないようだった

「…な…何故?」

術中に嵌ったのが納得いかず苦悶の表情で(黒くて見えないが)疑問を浮かべる
アリスが牢姫の前に立つと牢姫の意思に反して影の兵達が勝手に消え去ってしまった

「…アンタが…消したの?」

「その通りだ お前等はどうやら無生物のようだからな」
「ネタバレすると『失われし人形(ロスト・パペット)』は意思無きもの及び無生物に対して発動できる」
「効果は勿論私の支配下になる事だ 勝負有りだな」

「く…くそ〜…ホントにすぐ負けちゃった…」

行動可能になったのか牢姫が地団駄を踏み大いに悔しがる

「…あ…そういえば最初の術はなんだったの?どうせだからそっちも教えてよ」

「………『混乱する愚者(コンフューズ・ザ・フール)』は何かしら強い反応を見せた対象に発動できる支配呪術だ」
「憤怒、驚愕、大笑、疑惑、幸福、苦痛、絶望の反応を見せれば大抵術中に落ちるのだが」
「この術は意思無きもの及び無生物には効果が無くてな この術の無効化でお前が無生物と理解した」

「そうなのかぁ…じゃあ結局あの閃光で多少驚愕しちゃったからその時点で負けてたのかぁ…」

トボトボと2人の所に戻り 入れ替わりでクリェドゥスが対峙する

「最後は俺だな…まぁお手柔らかに頼むぜ?」

「ふっ…」

まるで返事をするかのように風の刃で攻撃する
それを結界で防ぐとクリェドゥスはアリスとの距離を大きく取った

「お前は遠距離主体か?」

アリスが質問を投げかけるがクリェドゥスは無視する
解明の能力で今の質問が『呪いの問答』による罠だと解っているのだ
もし返事を返せばまた同じ質問をされた途端詰みになる
二回目の問答は何かしら反応をしただけで発動するのだ

「ハッ!」

アリスが腕を払い燃え盛る波を放つ
対するクリェドゥスは高く飛びレーザーを放った
しかしいくら光速のレーザーと言えども動作等で見え見えなので難なく避けられた

「地縛空閉!!」

アリスが術を叫び地面を殴りつけると飛行していたクリェドゥスがもの凄い勢いで墜落した
クリェドゥスだけでなく周囲一帯の雲まで落ちてきて雲が落ちてきた場所はびしょ濡れになった

「チィ!その術は飛行を禁ずる術か…」

「飛行どころかあらゆる物質がほんの少しの時間も地面から離れる事はできんぞ 私は例外だがな」

クリェドゥスが口元を押さえ必死に呼吸を始める
見えない空気も地面に縛られているのか段々と音が聞こえなくなってきた
攻撃範囲を調節してるのか牢姫達には足元に風が出てきた以外に影響が無い

そしてアリスが腕を上げクリェドゥスの頭上に鉄の塊を出す
幽玄にも牢姫にもやった攻撃だが今度のは地縛空閉の影響で今までの比にならない速度で落ちてきた
威力も今までの比ではなくその鉄の塊がクリェドゥスに直撃する

「ぐぁぁぁあああああ!」

結界を張って致命傷は避けられたものの大ダメージを受けた
思わず声を上げるが同時にしまったと気づく しかしもう手遅れだった

「ふっ…『混乱する愚者(コンフューズ・ザ・フール)!』」

苦痛という強い反応を見せた為術の条件を満たしてしまったのだ
鉄の塊が直撃した時から地縛空閉を解除していたのか空気も正常化しハッキリと術の宣言が聞こえた
同時にクリェドゥスは行動不能となりあっけなく支配された

「もう言わなくても解ると思うが…勝負有り…私の勝ちだな」

「やれやれ…俺ももう歳かね…こんなあっけなくやられちまうとは…」

素直に負けを認めると術を解除してくれたようですぐに行動可能になった

「皆負けちゃったね ハッハッハッハッハww」

負けたのにもかかわらず牢姫が大笑いする

「とりあえず勝負はしてやったんだ…協力はしてもらうぞ?」

「わかっている…だがこれで貸し借りは無しだからな?」

弱者の相手はしたくないと言いたげに吐き捨てるようにアリスが言う

「それで…その助けてやって欲しいという友達は何処に居るんだ?」

「別の世界に居る 今すぐは会えないから多少待ってもらう必要があるんだけど」

「……そうか…ならしばらくは好きにさせてもらう まだやり残してる事が沢山あるからな」

「わかった なるべく早めに済ませておいてよ?何時でも会えるように…ね?」

「ふん…とりあえずこれを渡しておく すぐに連絡がつくようにな」

アリスは3人に札を渡して去ろうとする

「これは?」

「言霊符という…その札に霊力を込めて話せばその札を持った全員に声が届く」
「これには親と子の札があり私が持つ札が親札だ 子札は親の任意で消し去る事ができる」
「あんまりうざいようならお前等に渡した札を消すからな?」

「まだ信用されてないのかなー…まぁいいや…ありがたく使わせてもらうよ」

「それじゃあな」

アリスはかつて己を封印した国へと飛び立っていった






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あとがき

第三十話終了

アリスさん登場です 真名ニケということでNアリスさんですね
まだ出たばかりなのでその本意は不明 どうなるんでしょうねぇ…w
MUGENと違って多重人格者ではありません 最初から裏のアリスさんと思ってくれていいです
肌の色は真っ黒じゃなくて色が抜けた白〜灰色てな感じですけどね

数多の魔術と自らが開発した特殊な呪術を持ち
赤子の時から掛け続けられた強化魔術によって人間を超越した魔人となっています
とりあえず特殊呪術を一部紹介しますねー

アリス(ニケ) 特殊呪術
混乱する愚者(コンフューズ・ザ・フール)
攻撃対象が何かしら反応を起こした場合に発動できる
術に落ちた対象を支配し任意に操作及び命令できる (到底無理な命令でも可能:例,爆発して蒸発しろ等)
特に憤怒、驚愕、大笑、疑惑、幸福、苦痛、絶望の反応を相手がしてきた場合はほぼ必ず成功する
意思無きもの及び無生物には効果が無い

失われし人形(ロスト・パペット)
意思無きもの及び無生物をほぼ無条件で支配する
混乱する愚者(コンフューズ・ザ・フール)』の効果対象外にはこの術が大体刺さる
意思のある生物には効果が無い

呪いの問答(カーズド・アンサー)
第一の問いで仕掛けを施し第二の問いで効果を発動する
術者のある問いを呪いのワードとして登録しその問いに何者かが答えればそれが第一の仕掛けとなる
再度"同じ問い"で同じ相手が反応すれば成功 相手を支配する
相手の答えは呻き声だろうと何だろうと構わず 音を出してこれば良い
術者の問いは必ず第一の問いと同じでなければならない
相手が沈黙するならあまり期待はできない術
また第一、第二の問い両方に複数が応えた場合はその全員に対して術が発動される


アリス「貴方は何者?」←呪いのワードとして登録 登録に宣言等は不要
敵「答える必要は無い」←問いに対して返事をしたのでセット完了
アリス「もう一度問う………『貴方は何者?』」←第二の問い
敵「煩いぞ」←問いに対して返事をしたので条件を満たし『呪いの問答(カーズド・アンサー)』発動可能に
アリス『呪いの問答(カーズド・アンサー)!』←宣言により発動 条件を満たした全ての相手を支配する

記憶兵士(メモリーズ・ソルジャー)
攻撃対象の相手が過去に戦った事がありかつ憶えている存在を召喚し攻撃させる
この時、召喚する存在は既に死亡及び消滅していなければならない
召喚された存在は本人そのものであり術者が定めた攻撃対象へ攻撃し続けなければならないという制約以外は
召喚された存在の自由意思で動ける
この術で召喚した存在の全能力は召喚時に『記憶兵士(メモリーズ・ソルジャー)』発動者に全て伝わる
召喚するのは一人の記憶から一度しか発動できず
また、召喚した場合はその存在が消えるか死ぬかしなければ永久に存在し攻撃してくる
この術には解除の概念が無い為である
複数の存在が一存在を記憶していた場合はその記憶している存在の数だけ召喚を行える

AとBの存在が特定の存在Xを記憶していた場合
そのXを召喚できるのは2度までとなる(Aの記憶で召喚したXが消えてもBの記憶でまたXを召喚できる)
応用として敵が複数居た時に敵の一人だけが存在Xを知っていて記憶兵士(メモリーズ・ソルジャー)で存在Xを召喚
すると今まで存在Xを知らなかった他の敵も存在Xを記憶し、結果存在Xの召喚回数が増えたりする事もある

繰り返す運命(デステニー・リフレイン)
呪いの問答(カーズド・アンサー)』同様にセットと発動を必要とする セットに何かしらの宣言は要らない
発動した場合はセットした時間軸へと全てが巻き戻る
巻き戻ったかどうかは『繰り返す運命(デステニー・リフレイン)』発動者にしかわからない
術者が意図せず死亡した場合は無条件で発動されるが
セットしていなかった場合はそのまま死亡してしまう


14時に『繰り返す運命(デステニー・リフレイン)』セット
18時に死亡及び任意で『繰り返す運命(デステニー・リフレイン)』発動
セットした14時に全てが巻き戻りセットされた『繰り返す運命(デステニー・リフレイン)』は未セット状態に戻る
この巻き戻りが発動した場合術者以外は記憶が残らない
また巻き戻ったからといってその後あらゆる物事がループ前と同じ結果・過程になるとは限らない
(『繰り返す運命(デステニー・リフレイン)』発動前にサイコロを振り4が出たとして
 発動後に同じ時間、タイミング、同じ動作でサイコロを振っても4が出るとは限らない
 ついでにそのサイコロを振る者が必ず同じ行動を取るとも限らない)

暴走する時(クロノ・バーサーカー)
同じ時間軸に居る全ての存在に影響を及ぼす
自分が存在する一定空間内の全存在の時間の流れを狂わせる
目の前の人間が急激に老いて死んだりその隣で壊れていく機械が直っていったりする
アリスさんの中で自重している世界を滅ぼしかねない禁術の一つ

天への秒読(ヘブンズ・カウントダウン)
呪いの問答(カーズド・アンサー)』『繰り返す運命(デステニー・リフレイン)』同様にセットと発動を必要とする
一つの存在に触れて宣言することでセットされ、その100秒後にセットした存在を無条件で支配する
触れられない相手には効果が無いものの条件の緩さは愚者や人形とは比べ物にならない

とまぁこんな感じです 中々に中二臭いですねw だがそれがいい
呪術によって支配下におかれるとほぼアリスさんに負けます 何もできませんからね
唯一の天敵はあらゆる害を受け付けないウサギ仮面でしたが彼はもう亡き者なので
特に無効化を恐れずに暴れまわる事ができるでしょう
また無効化できる敵が現れても能力自体を何とかしちゃう呪術とか開発しそうでやばいですね
まぁパッチェさん同様のチート術者となるでしょう
てか霊禍に師事する奴皆チートだし…今更一人や二人増えても変わらんでしょうなw

それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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