東方輪廻殺
第三十一話 画策

南西の大国[ヘラ]へ到達
広い荒野で世界の東西南北に存在する私達の南の拠点から近い大国だ
パッチェさん曰くかつてここら一帯は大規模な戦争の戦地となった為に
緑は絶え見晴らしの良い荒野と化したという

「…暑い」

まだ夜が明けたばかりの筈なのだが日の光が激しく照りつける
何度も汗を拭いつつ国を巡回する

「そういえばパッチェさん イレイザーが活動してるって言うけど本当なの?」
「ヘラってそもそもどういう国なの? かつて戦地だったらしいし」

黙って国を回るのは退屈なのでパッチェさんに問いかける

「…イレイザー活動の件に関しては噂だ」
「どういう国かって言われてもちと困りますなぁ〜 此処はこういう場所なんだとしか言えんね」

だるそうにパッチェさんが答える マジメに答えるつもりは無いみたい
流石のパッチェさんも暑さで冗談を言う余裕は無さそうだ

「こういう場所…ねぇ…」

見渡せば何やら大きな岩石を運んでたりガガガガガと砕いてたりしている
こんな朝っぱらから騒音が酷くてはちゃんと眠れそうにない

「アレは何を採掘してるのだろう?」

「ほう…田舎者の霊禍嬢でもアレが採掘だとわかるか…」

意外そうに…かつ明らかに小馬鹿にした口でパッチェさんが言う
少しムッとなり反論した

「バカにしないで…いくら私でもアレが鉱物発掘や工事の類って事くらい解るわ」

「では…何を採掘してると思う?」

「それは解らないわ…私はこの世界の事全然詳しくないもの…」

「ですよねw」

「その顔むかつくぅ〜!」

パッチェさんは本当に人を怒らせるのが得意なようだ
知らない以上何も言えなくなり押し黙ってしまう
そんな私の様子を見たパッチェさんはドヤ顔で説明を始めた 苛立つから変な顔するのを止めろ

「あれはアダマンタイトと呼ばれる鉱物を採っている」

「アダマンタイト? 知らないわね…何に使えるの?」

少し興味が出てきた 異世界にはこういう幻想郷には無いモノが沢山あるから
それを知れるのは微かながら楽しみにしていたのだ 無駄な知識になるかもしれないが
幻想郷では知れない…味わえない体験と知識は追放された事をひたすら嘆くよりかはずっとマシな筈…
否…せめてこういう喜びが無ければ私はきっと怨みや哀しみで潰れてしまう…

「アダマンタイトはとても頑丈な重金属でな…」
「加工とかはこの世界にとって難しいが武器や乗り物、建物等で使われている」
「他の異世界では希少だがこの世界ではわりとありふれた鉱物だな」

「へぇ〜…結構使えそうね…貰えないかしら?」

丁度何でも良いから素材が欲しかった所だ
必要としていれば補給は要らないとルクィ達から説明を受けた
つまり私の自己世界に送り込み量産・加工できれば
ギルドを利用するより効率的にお金も稼げるかもしれないし
色々役立つ何かを作り出す事ができる筈だ
他の世界で希少だと言うなら是非とも此処でアダマンタイトを入手したい

「ん〜…タダでは貰えないと思うが購入は出来ると思うぞ」
「何だ? 宝石と違って別に綺麗じゃないぞ? あんなのが欲しいのか霊禍嬢は」

「うん 今後役立つかもしれないし 取っておいて損は無いかなと」

「ふむ…わかった…ここは我に任せろ 交渉して入手してやるよ どれくらい必要だ?」

珍しく文句もからかいも無く賛同し協力の姿勢を見せるパッチェさん

「そうね…とりあえず手に持てる分で良いと思う」

素材が本当に量産できるとはまだ確定していない
とりあえず入手を優先し量産・加工ができるか確認しないと…

「思うって曖昧だなおい……まぁいい…んじゃちょっくら行って来るからそこら辺ブラブラしとけ」

「もし足りなかったらまた頼むと思う…その時はよろしくね」

「その時は自分でやるんだな霊禍嬢」





パッチェさんは採掘場に近づきそこの従業員に話しかける

「へいおっさん共 少しばかりアダマンタイトを頂けないですかね?」

「此処にあるのは原石だけだよ それでも良いのかい?」

一人だけ作業を一時中断しパッチェさんに応対する

「あぁ構わんよ」

「ならそこらに転がってる小さなモノ勝手に持って行きな 小さすぎて使えないからな」

「そうかい…なら勝手に持ってくよ仕事の邪魔して悪かったな」

了解を得てアダマンタイトの小石や粒を拾い始めいつの間にか用意していた袋に詰める

「構わんよ それだけ小さいとゴミ同然だからな」

不要とされたアダマンタイトを全て回収したパッチェさんは霊禍の許へ戻っていった





「ただーいま ホレ…これがアダマンタイトだ」

小さな袋に詰めたアダマンタイトをパッチェさんから受け取る
思ってた以上にズシリと重く存在感溢れていた

「おかえり 結構早かったわね」

「それをどうするんだ?」

用途が分からない為当然のように聞いてくるパッチェさん

「ちょっと試したい事があってね」

「試したい事…?」

「うん…では早速…」

小さな袋ごとアダマンタイトを自己世界へ送り込み皆に加工及び増加できるか聞いてみる

(どうかな? 加工と量産できそう?)

<必要とあれば幾らでも増やせますよ 此処はそういう世界ですから>

とりあえず量産は可能みたいだ 後は加工できれば良いんだけど…

<加工は少し難しいですね…硬すぎて変形が難しいです>

しばらくの沈黙の後再びルクィから報告が上がる
何だか後ろの方でグウィンが悔しがってる声が小さく聞こえるが
彼女の能力が通じなかったのだろうか…?

(そっか…わかった 加工方法とかはこの世界で調べてみるよありがと)
(できれば大きい塊が出せるように送ったアダマンタイトは固めておいて お金にもなるだろうから)

<了解しました>

そこまで話をつけて目を開ける
話しかけるタイミングを窺っていたパッチェさんが早速問いかける

「霊禍嬢が消したアダマンタイトはどうした?」

「自分の世界に送りつけて量産・加工できるか試しただけだよ」

「ほう…素晴らしいな…どんなモノでも量産・加工ができるのか?」

パッチェさんが何だか悪い笑顔になる
使える能力だと思ってるのが顔に出ているな…私でもわかる

「それはわからない…少なくともアダマンタイトの量産はできた 加工はまだ無理みたい」

量産できる証として目の前にボトボトとアダマンタイトを召喚する
受け取った時の量を大きく上回る量を見せ付けてやるとパッチェさんが珍しく目を丸くした

「こいつは良い! 何故その事をもっと早く我に教えなかった!?」

「この事は私自身ついさっき知った事なの…すぐ教えろって言われても無理だよ…」
「それにこれだけに限らず私の能力はまだわからない事だらけ」
「だから逆に今までできた事ができなくなることもありえるわ」

自分でここまで言って突如不安になった
今までできた事ができなくなったらどうしよう…
特に自己世界への接続や召喚、空間転移は今後何度も行うであろう大事な事柄だ
やはりこれ等に頼りっぱなしにならないようにしなきゃな…

「そうかそうか…んでアダマンタイトの加工は今は無理と…」

「そうよ だからこの世界ではどういう風に加工してるか学びたいわね」

「それなら"黒翼"の出番だ 早速呼ぼう 善は急げ…だ」

パッチェさんは懐から携帯を取り出し黒翼へと電話する
何だか黒翼にも頼りっぱなしで悪いなぁ…
パッチェさんと一緒に行動するようになってから何度もお世話になっている
ボーっとそんな事を考えていると電話が終わったようだ

「呼びつけておいたぞ 序でに役立つであろう物資の調達も頼んでおいた」

量産の能力を聞いてからやたらとにやけているパッチェさん
電話中も終始黒い笑顔だった 何を量産させる気なのやら…

「早速量産目的で私を使う気ね…パッチェさん…」

「当然だ…言っただろう? 霊禍嬢の能力で出来る事は出し惜しみせずどんどん使わないとって」

「そうしないと鈍る…だったわね…ホント能力に鈍るとか無いと思うんだけど…」

「使えるなら使った方が持ち腐れにならない だから使うべきそうするべき」

お喋りしてる間に一人翼人族が舞い降りる どうやら到着したみたいだ

「お待たせしましたパチェナ・ネヴィースチル これが頼まれたモノです」

「ご苦労」

パッチェさんがでかい封筒を受け取り中身を確認する
アダマンタイトの加工法は私に渡してくれた
他にも何かあるみたいだが…また別件で何か頼んでたのかな?

「そしてこちらが言われた物資です しかしこれだけ少量だと役に立ちませんよ?」

「良いんだよ別にそれで んじゃこれ支払いとなる情報ね」

小さく袋で小分けされた何かを複数受け取り代わりに何かの資料を渡すパッチェさん
渡した資料にルゥとシュウの二人の顔写真が見えたが…何の情報だろう?
あの二人はパッチェさんと関わり無い筈だが…?

「はい…確かに受け取りました それでは今後もご贔屓に…」

物資や情報の交換を済ませると颯爽と黒翼は飛び去って行った
やはり射命丸文のような鴉天狗に似てるが彼女とは似ても似つかない仕事熱心さと便利さだな…
黒翼が見えなくなったところでパッチェさんに疑問をぶつけた

「さっき黒翼にルゥとシュウに関する何かの情報を渡したみたいだけど…何なの?」

「ん? あぁ…あいつ等は霊禍嬢の事を知ってるだろう? 邪魔だから始末するのさ」

さらりと始末すると言い放つ 今度は私が驚かされて思わず何故と聞いた

「いやだから「邪魔だから」って言ったじゃないか」
「黒翼に渡したのはまず奴等二人が食いつきそうな餌となる情報」
「次にクロノスのターゲットになるように潜伏場所の情報だ」

「クロノスのターゲットに…?」

ここでこの世界にきて早々にスカーレット・クロノスに目をつけられ
二人を連れてくるよう言われたのを思い出す
私のような見知らぬであろう人にもそんな事をさせたのだから
ルゥとシュウはどうしても捕らえたかった存在だったのかもしれない…

「情報で既に二人組みの内の一人、ルゥには空間転移能力がある事が判明している」
「だがその空間転移の詳細がまだクロノスには分からなくてな…渡したのはその詳細だ」

「詳…細…」

「あぁ…これに関しては黒翼から我に調査依頼が来ていた もう調べは済ませたがな」
「ルゥの空間転移能力…それは建物内からの脱出と侵入のみらしいな」
「よって潜伏場所がわかればクロノスはそこを一点集中で戦力投下できる」
「その事がわかった以上二人組みの命はもう長くないだろう」

どうやら空間転移にも色々あるらしくルゥの能力は私みたいに万能では無いみたいだ
今までの空間転移能力者は私の他に八雲紫くらいしか知らなかったので
全員が全員万能なものだと先入観があった…こういう先入観も無くさないと後々危険だな…

「せ…潜伏場所を教えたとして…どうして餌となる情報も渡したの?」

潜伏場所をクロノスに流してもその前に餌で二人は移動するだろう
パッチェさんは何を考えてるんだろう?

「餌となる場所は禁域のネミセトだ 行くかどうかはわからん」

「禁海域[ネミセト]か…海に入るのも嫌がってたし…行かないと思うけど」

「だから行かなかった場合の保険としてクロノスに潜伏場所を教えたのさ」
「行けばネミセトの情報が少しは知れ、行かなくともクロノスの目がどの場所に向いてるか解る」
「奴等二人には我特製の発信機を付けさせて貰っている 少しは役に立って貰わないとな」

「発信機…いつの間に…」

「ルゥの調査をした時からだ」

パッチェさんはもはやルゥとシュウを人ではなく駒としか二人を見てないな…
邪魔者として処理するのではなく利用するだけして始末する気みたいだ…

「パッチェさん何気に外道なのね…」

「突然褒めるなんてどうしたんだ? もしかして二人の事気に入ってたのか?」

「いや褒めてないから…それに気に入ってもなかったけど…それでも誰かが死ぬってのはちょっとね…」

パッチェさんはふざけた一面をよく見せるがキレ者だ
ルゥとシュウの二人がどれだけやれるかはわからないがきっと策に嵌って
パッチェさんの思惑通りに死ぬだろう…
どう転んでもパッチェさん…いや、我々に利益を残して消えていく…

「霊禍嬢は能力だけでなく人も利用する考えを持った方が良い…我からの忠告だ」

「人を利用するなんて…平和的に協力とかならともかく…駒として見るのは嫌だよ…」

特に使い捨てのようなやり方は嫌い… 捨てられる苦しみは私もよくわかっているつもりだ

「はっはっはww "禍"として生み出された霊禍嬢が平和的とか何言ってんだか…」

「うるさい! 私は…禍なんかじゃ………」

カチンときて思わず大きな声をあげたが禍でないと言い切る事はできなかった…

「霊禍嬢…牢姫さんからの話によれば自分の居場所を見つける事が目的らしいな?」
「己を認めてくれる場所…生きていて良い場所…そういう居場所を探してるんだろ?」
「それが例え…利用されるような所でも…だ」

パッチェさんが真剣な表情と口調になり私に確認をする
辺り一帯が静まりさっきまでの暑さが嘘のように感じた…空気が…重い…

「………」

「…我は霊禍嬢みたいに否定されてきた人生を歩んだ事はないからその苦しみはわからんが…」
「居場所とは見つけるんじゃなくて作り出すものなんじゃないか? と我は思うね」

「作り出す…もの…」

「そうだ…何も使われるのが居場所じゃない…暴君になっても良いんだぞ?」
「結局は力がモノを言うものだと我は考えてるがな…」

「暴君…王様だなんて…私には似合わないよ…」
「それに力による支配は私の望む居場所じゃないってわかってるもの…」

もしそれを選んでたのなら私はあの平行世界の幻想郷で暴れまわっていただろう
あの世界の霊夢ですら殺し支配者と化してた筈だ
何せあの時点で紅魔館と妖怪の山の2大勢力を滅ぼし紫や魔理沙等の実力者でさえ殺したのだ
私の死後、あの幻想郷がどうなったのか気にはなるが
私が今まで行ってかつ死んでしまった異世界にはなるべく行きたくない…
行けば死者である筈の私は当然化物扱いされ全力で排除しようとしてくるだろう…それは嫌だ…
例えそうでなくてもあの世界に私の居場所は無い
支配が成功しようが失敗しようがそういう道を歩めば私の望む平穏は来ないのだ…

「…ま、霊禍嬢の願いは霊禍嬢自身が何とか叶えるとして そういうやり方も学んだ方が良い」

すっかり沈んでしまった私を見て早々に話を切り上げようとしたのか
パッチェさんは真剣な表情を止めて軽い口調で話した

「………わかった…どんな世界でも生きていけるようとりあえず学んでおくわ…」
「具体的にはどうすれば良いの?」

「具体的って…う〜ん…難しい話だな 操る対象によって様々なパターンがあるからな…」
「基本はそいつが何を望み、何で動くかだ これを把握すれば面白いように動かせるようになる」

「目的と…動機?」

「まぁそんな感じだな 例えば今回のクロノス…奴等の目的は何だ?」

「そんなのわからないわよ…」

相手は大組織だし複数人数だ
どういう奴が居るかもわからないんだから目的なんて知るわけが無い

「奴等全体の事を考えなくても良い まず前情報として我々は奴等に狙われてる事は良いな?」

「う…うん…」

「奴等は我々を捕まえたい…捕まえて何をするかは知らんがとりあえずそれはハッキリしている」
「なら我々の情報が欲しい筈だ そこで…奴等はどうすると思う?」

「私なら世界一の情報機関である黒翼に調査させるわ」

特に悩む事無く答える 多分コレが最善手の筈だ

「そうだな…我でもそうする だから先手を打ち黒翼には口止めさせておくんだ」

「口止めとか出来るの!?」

寝耳に水な話だ 黒翼にはそんな事できないとずっと思っていた
口止めが可能ならば黒翼は逆に全然使えない事になる…

「黒翼は中立とされている 奴等にとっての金である情報源が減るのは良しとしないのだろう」
「それなりの金や情報を積めば口止めが出来る事になっている これは黒翼での極秘ルールだがな」

「そう…だったんだ…という事は私達の情報は口止めしてたと?」

「うむ…そうする事で奴等へ渡る情報を操作してたからな」

いつの間にそんな事をしてたんだろう…とりあえず伏せてくれてたのはありがたいな
あの大組織がすぐに私達に襲撃しなかったのは私達の場所がわからなかったからか
黒翼を何度も利用してるのにクロノスが来なかった謎がようやくわかった

「勿論相応の情報を払えば口止めすら無視して情報を開示してくるがな」
「黒翼内でも相場ってのがあってな重要な情報程扱いも違う…まぁここら辺は今は気にしなくて良い」
「さて、黒翼から情報が全然来ないとすれば…どう動くと思う?」

「え〜っと…」

黒翼からの情報が来ない…口止めの件は多分…知らない筈…
黒翼での極秘ルールだから黒翼以上に情報に強くなければ知りえないと思うし
仮に知っていても相応の情報を払わなければならないからリスクがでかすぎる…
なら…自力で探すしかない クロノスも大組織なのだ…人手はあるだろう

「自力で…探すと思う 部下を沢山使って…ギルドも利用して…」

「それなら我々はどうすべきだと思う?」

特にヒントも無く授業が続く 大分悩んだが何をすべきかはわからなかった…

「わかんない…どうすれば良いの?」

「良いか? いくら大組織だからと言っても人員を全て一つの物事に集中して動かせるわけがない」
「それに霊禍嬢は下っ端達を全員倒している…捕らえるには戦力が必要だ」
「もちろん戦力だってそんな分けられない…よって我々の捜索にはそんなに力を入れられないのだ」
「だが奴等には権力がある そこで奴等がやってきた事は…もう知ってるよな?」

「私の…指名手配…」

「その通り 奴等の規模がもっと大きければ霊禍嬢の言うとおり自力で探しただろうが…」
「指名手配したという事は人員を分けられないって証明になったわけだ」
「そして民衆は指名手配だけではそんなに探そうとはしない 我々は国外で潜めば良い」

「…なるほど…」

「そして我は霊禍嬢の指名手配を別物にすり替えておいた 数日経てば普通に国に入れるだろう」

またいつの間にそんな事を…本当に手が早いなぁ…

「今[ヘラ]に入っちゃってるけど…それは良いの?」

「それは大丈夫 イレイザーが居るかもしれないからな」
「イレイザーを相手にするとなるとクロノスとしては部下が死にかねんから慎重にならざるを得ない」
「さて、指名手配をしても情報が入らない…奴等はどうすると思う?」

「…流石にわからないよ…スカーレット・クロノスが何処までできるか把握してないもの…」

「そうか…まぁ…そうだな…今の霊禍嬢にはきつい問題だったか…」
「なら…先手を打つために我々は何をすれば良いと思う? 奴等は我々に対しては膠着状態だ」

ここでまた考えさせられる…う〜ん…先手…か…
最終的にはクロノスを潰す事だから…攻撃の為に隙を突きたい…
なら…その隙を作り出す事が必要か? どうすれば奴等は隙を作る?

「えっと…」

「ヒントをやろう 奴等と敵対しているのは我々だけでは無い」

私達だけが相手じゃない…となれば私達の事は一旦諦めて他の連中の調査?
特にルゥとシュウは今も探してる筈だしイレイザーの動向も知りたい筈だ…つまり…?

「ルゥやシュウ…そしてイレイザーの場所や行動とかを…クロノスに教える?」

「そうだ それが我が取った行動 他にも手はあるだろうがそれも有効手の筈だ」

「でもどうやって情報を…」

「ふっ…パッチェさんを甘く見るなよ?」

そこら辺は任せておけと言わんばかりに胸を張る 何だかんだで頼もしいな…

「じゃ…じゃあ先程黒翼に渡したのはクロノスに隙を作らせる為って事?」

「ん…それもあるが本命はクロノスの戦力確認だな」
「調べでは二人組みは丁度このヘラに居る 上手くいけば戦力投入する筈だ」

「えっ? 鉢合わせになったらダメじゃない! すぐに出国した方が良いんじゃ…」

「大丈夫 すぐには来ないよ クロノスのボスの居場所から考えて移動に時間が掛かる筈だ」

「…あれ? もうクロノスのボスの場所がわかるの? アンタ一体どこまで知ってるの?」

「黒翼は本当に有能な奴等でな…我々のアジトを教える代わりに教えてもらった」

「え…私達の…拠点は…もう向こうにバレてるの……口止めは…? あれ…? あれ…?」

此処までくると何もかも知ってるようで少し…いやかなり不気味だ…
このままパッチェさんを信用して良いのだろうか…?
でも今の所唯一の仲間…信じなきゃ…

「安心しろ 拠点がバレていても奴等は攻められない」
「ルゥとシュウの二人組み如きに手こずってた時点でそれは明らかだ」

バレていても問題ない大丈夫と得意気に説明する

「………何で?」

「クロノスは二人組みが空間転移能力を持ってるのを知っている」
「そしてその二人組みは今まで捕まっていない」
「それは何故か…転移の能力の所為で全ての拠点をマークしないと逃げられると踏んでたからだ」
「奴等は戦力を分散できない何かの理由がある だからマークできず二人組みにすら逃げられていた」
「戦力を分散できない以上我々に対しても全ての拠点をマークできない」
「奴等が攻めてきたら我々は別の拠点へ逃げれば良い そうすれば奴等は無駄骨だ」
「奴等もそうなる事がわかってるから今どう攻めるか考えてる最中だ…な?とりあえず安全だろ?」

「…でもさ…それはあくまで予想であって戦力分散してきたらどうするのよ…?」

「その時は返り討ちにすれば良いだろう 戦力分散してるなら殲滅は容易い筈だ」
「おそらくだが…戦力分散しないのは返り討ちを恐れてるからだと我は予想する」
「奴等にとっては我々が戦闘か空間転移を取るか攻めてみないとわからんのだ 最悪罠かもしれん」
「だから奴等は我々に対しての最善手がわからず攻めあぐねている」

…なるほど…確かに戦力が少なければ倒すのは簡単だろう…
クロノスは私達の戦力がわからない筈だ…それに敵の拠点となれば罠も警戒する…
私の戦力がどうあれ確実に仕留められる自信が無ければ攻められない…か…
仮に…予想以上に戦力が弱かったとしても…その予想が外れれば部下が死ぬだけ…博打は避けるか…

「でもだからと言ってそれで安心して放置するわけにはいかない 奴等にも攻め手があるからな」

「攻め手…?」

「あぁ…繰り返すが奴等には権力がある…軍を動かせる程な…」
「奴等は我々の拠点をまず調べるだろう…どれ程の規模なのかとかな」
「我々の拠点はボロ小屋だ…大砲一つで簡単に吹き飛ぶだろう」
「そこで軍を動かして全ての拠点に大砲で狙えば良い」
「設置が終われば後は連絡と監視でタイミングを合わせればOK 我々が拠点へ帰ると同時に砲撃される」

「そんな…! じゃ…じゃあ其処までわかってるなら何を…?」

「大砲の移動には時間が掛かる そ・こ・で奴等に二人組みとイレイザー関係の情報を流すんだよ」
「奴等は二人組みも捕らえたい…大砲の準備は中断し二人組みを捕らえるように戦力を投入する筈」
「我々の拠点情報と先程の情報はそんなに時間が空いていない 奴等はとっても忙しい筈だぞ」

「筈…って…結局予想なのね…そんな上手くいくかしら?」
「それに二人に注意を逸らしたとしてそれが終われば大砲準備再開でしょ?」
「それまでに…どうするの? もう決着をつける…とか?」

「ありゃ…良く分かったな その通り…二人組みが片付き次第クロノスを潰す」

早くも決着をつけると言うパッチェさん 幾らなんでもそれは無理なんじゃ…

「確かに我々の戦力は少ない…だが霊禍嬢には奴が居るだろう? 認識できない能力者であるアムが…」

ここで予想外の名前がパッチェさんの口から出てくる
今までの話で何度か驚いたがこれには一層驚いた

「何で…知って…」

アムはこの世界に来てから一度も召喚していない
拠点を作る際の召喚も全て襲牙と空龍のみであり他は召喚しなかった…
なのに何故…アムを…しかも能力まで知っているんだ…?

「アムについてはクリェドゥスから教えてもらった」
「半信半疑だったが…霊禍嬢の反応を見る限り本当に居るみたいだな」

「………確かに…城を単独で陥落させたアムなら…いけると思うけど…」

<相手が不死身とか超絶に強くなければ暗殺できますが…>

自己世界からアムが話しかける…クロノスの戦力は知らないがいけるみたいだ…

「気乗りしないか? アム含め霊禍嬢の僕は死んでも死なないんだろう? 使えるじゃないか」

どうやらパッチェさんは私の魔物達を戦力として使うつもりのようだ…
幾ら倒しても私自身が死ななければ無限に出てくる魔物達…戦力としては申し分ない
でも…召喚による戦争は…幻想郷の二の舞の結末に…

「またあの幻想郷の二の舞になりたくない…全てから敵視されるような…」
「だから召喚は…なるべくやりたくない…するとしても拠点作成のような平和的なものだけにしたい」

「そうか…だが既に戦いは始まっているんだ 悪いがクロノスを潰す為に召喚してもらう」
「何…アムだけで良いんだ…常に認識できなくしてボスと幹部全員を始末するだけだ」
「アムの能力次第だが誰がやったかはわからない筈 霊禍嬢は敵視されないだろう」

<まぁそうですね 誰がやったか解るようでは二流以下の暗殺です バレませんよ>

「………うぅ…」

そこまで言われると反論できない アムもバレないように暗殺できると豪語している
私が危惧した事態にはならないと言っているのだから…

「まぁ今すぐやれとは言わない…アムの出番はまだまだ後だからな」
「今は…イレイザーに関しての調査だ…」

話を大きく戻してイレイザーの話になる
そういえばイレイザーの活動活発化の噂で来たんだった…

「先程黒翼から受け取った資料にイレイザーと疑わしき人妖のリストがある」
「このリストの人物達を警戒しつつ我の目でイレイザーかどうか見極める」

「見てすぐ解るの?」

イレイザーの詳細まで解ってるとしたら…パッチェさんは…この世界で敵無しなのでは?
スカーレット・クロノスは敵対してる以上よく調べているだろうし
黒翼の極秘ルールも知っていた事から黒翼にも詳しい筈だ
イレイザーまで詳しく知ってたならこの世界の三大勢力全てを手玉に取れる…かもしれない…
恐ろしいのはパッチェさんは私より後にこの世界に来た筈
短時間でどうやってそこまで…? …考えても仕方ないか…

「イレイザーは殺し屋家業…強くないとダメだ…その力量を見極めて判断する」

「なるほど…それくらいなら私でもできそうね…」

相手の力量を知る事…これの重要さは師匠の教えもあって私もよく理解している
思えばこの世界で驚異的な力を持った存在には出会っていない…
いつかパッチェさんが言った通りこの世界に私より強い者は居ないかもしれない
一番の脅威はパッチェさんだけだが…パッチェさんは味方だ……味方の…筈だ…

「んで…大分長話しちゃったけど…アダマンタイトは加工できそうかい?」

話すべき事は全て話したのか…加工へと話題を切り替える

「あ…そうだった…今確かめてみるよ」

黒翼から得たアダマンタイトの加工方法を調べてみると
アダマンタイトはどうやらとてつもなく頑丈だが魔法に弱いらしく
上手く魔力を調整すれば変形や接続他が自由にできるらしい
ただ弱いと言ってもかなり強力な魔法じゃないと破壊は無理なようだ
どこまでも頑丈な金属である…

「強い魔法が必要みたいね…」

「ほぉ…魔法か…我ならいけるだろうが…霊禍嬢の自己世界とやらだけで何とかならんのか?」

「あ、ならパッチェさんの魔法を吸収すれば後はこっちで何とかなると思う」

「攻撃の吸収か…確かにそれがあったな…クリェドゥスから聞いてたが忘れてたよ テヘペロ」
「んじゃ我の魔法吸収させるか…」

…色々と牢姫達から聞いてるみたいだけど…どこまで私の事知ってるんだろう…
こっちの事情を勝手に話されるのはちょっとなぁ…

「じゃあこの次元壁に魔法をお願い」

すぐ近くに壁を出す 初めて出した時からよくお世話になってる壁だ…
今ではもう親しみすら覚える

「よし…霊禍嬢…ちょっと離れてろ…魔法を打ち込む」

指示通り少し離れると属性を分けて次元壁に魔法を打ち込んだ
炎、水、氷、雷、風、光の6属性だ 加工だけでなく他にも使えるよう配慮したのだろうか?
打ち込まれた魔法は全て綺麗に次元壁に音も無く吸収された

「これで…吸収したのか? 掻き消したようにしか見えんが…」

「大丈夫…今ので使えるようになったよ…ありがとう」
「早速…加工できるか確認してみるね」

私は自己世界に呼びかけ今度こそアダマンタイトが加工できるか皆に聞いた

(アダマンタイトは魔法で加工するみたい…先程吸収したパッチェさんの魔法で加工できるかな?)

<成功を確認しました そちらに一つ送りましょうか?>

どうやら既に加工が終わったようだ 仕事が早い…

(ん…わかった 次元壁を通して送って良いよ)

<了解 送ります>

許可を出し加工品を出すよう命じると次元壁から刀が出てきた
かなり精巧に作られている…
その刀を見てパッチェさんがにやりと笑った

「どうやら加工に成功したようだな…」

「えぇ…思った以上に早くて私自身びっくりよ…」

アダマンタイトで出来た刀を拾いその出来を見る
薄く鋭い刀身のわりにずっしりとした重量…
多少のおしゃれのつもりか薄く模様が刻まれている

「折角の処女作だ その刀に何か名前を付けてやったらどうだ?」
「売り物にするとしても名前が無ければ扱いづらいだろう?」

この刀はパッチェさんの目から見ても立派な売り物になるようだ
名前か…そうだな…

「そうね…この刀の銘は…鬼の如き鋼の刃…『鋼鬼刃』にするわ」

「うわ…すげーネーミングだなおい…」

プププと含み笑いをするパッチェさん そんな酷いネーミングかなぁ…

「…いいでしょ別に! 私の刀なんだから!」

「はいはいそーですね…くぷぷ…w」

「笑うなぁ!」

「ちょっ…危ねぇ! 刀振り回すなや!」


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あとがき

第三十一話終了

新たに鋼鬼刃が作成可能になり
そしてパッチェさんから6属性の魔法を使えるようになりました
自己世界で量産・加工が出来るようになって益々チートじみてきましたね だがそれが良い

さて色々行動の予測とかそんなの披露しちゃう説明回でしたね
パッチェさん有能すぎワロタと自分で書いてて笑っちゃいましたわw
別に辻褄合わせでやってるわけじゃないのよ?
こうするだろうなってやったら何か
何もかも都合よくパッチェさんの思惑通りみたいになって少しだけ怖かった

んでついにルゥ&シュウの死亡フラグが立ちました
既に第5話で死んでるんで最初っから死亡フラグ立ってたけど
ここまで持ってくるのに苦労しましたね
近寄りたく無い禁域で死なせないと矛盾するんで…
多分次回あたりに二人組みは死地へと向かいます…多分ね!

クロノスとの決着も近いですなぁ…そして霊禍には全然死亡フラグが立ってない始末
この世界ではどういう結末になるのか…それはまだわしにもわからん…w


素材他のメモ まだアダマンタイトしか劇中には出て無いけど予定としてはこんなん
あくまで輪廻殺世界での設定です(´・ω・`)

アダマンタイト
超絶に硬く砕ける事も無い非常に重い金属 輝き等はまるで無く美しさは無い
主に武器等に加工されるがあまりの硬さ故に加工が難しい金属である
魔法攻撃で加工できる グウィンの能力が無効なくらい硬い

ミスリル
とても軽くその割には硬くそして魔力を帯びやすい金属
装飾品等にも使われる 他の伝説級金属の中では最も軽い
物理攻撃で加工できる グウィンの能力有効

オリハルコン
軽く硬く魔力を帯びやすい金属
他の金属と合金すると謎の特殊能力が発生する
物理攻撃魔法攻撃どちらでも加工できる グウィンの能力有効

ヒヒイロカネ
冷たいが熱伝導が高くまた磁気を帯びない
オリハルコン同様これも軽く硬いがこちらは魔力を帯びない
魔法攻撃で加工できる グウィンの能力はあまり効かない

賢者の石
あらゆる物質の触媒となる万能素材 命でさえも作り出せるといわれる
上記4種の伝説金属へと変化させる事もできる
ただしダークマター等の一部の物質には変化できない
変化させるには膨大なる魔法の知識が必要

ダークマター
とにかく黒い物質 質量が無いというもはや物質かどうかも怪しい特長を持つ
あらゆる超常的な力を大きく増幅・吸収し世に混沌をもたらすと言われる
何も無い宇宙空間に漂っているらしい
賢者の石では作れない
重力操作でのみ加工可能 物理攻撃も魔法攻撃も効かない

虹極晶
色鮮やかな宝石 レインボークリスタルとも呼ばれる
あらゆる自然的な力を大きく増幅・吸収し世に平穏をもらたすと言われる
自然の象徴である妖精達の秘宝ともされる
賢者の石では作れない
妖精のみ加工可能 他の種族では加工できない

時の砂
時間に影響されない特殊な砂 停止した存在の為決して破壊できない
加工は群を抜いて難しく何らかの手段で時間を与えなければ移動すらできない
元々は時間の干渉を受けない超生物が風化したものと伝えられる
賢者の石では作れない
超希少な物質
超強力な時間干渉が可能な存在のみ加工可能

無水
あらゆる力を吸収しその力を無くす特殊な水 飲むと生命力まで無くすので死水とも呼ばれていた
熱や電気等だけでなく位置エネルギーでさえも無くすという意味不明な水なので持ち運びすら困難
勿論質量さえも無い 光も吸収して消すので見た目は黒いらしく
液化したダークマターなのでは?と疑われている
賢者の石では作れない
超希少な物質
存在無き存在のみ加工可能 他の存在や攻撃は一切効かない


硬度  硬い← →柔らかい
時の砂>アダマンタイト>オリハルコン>ヒヒイロカネ>ミスリル>虹極晶>ダークマター>無水

軽さ  軽い← →重い
ダークマター=無水>ミスリル>虹極晶>時の砂>ヒヒイロカネ>オリハルコン>アダマンタイト

物理吸収・遮断率  物理耐性強← →物理耐性弱
時の砂=無水>アダマンタイト>ヒヒイロカネ>オリハルコン>ミスリル>ダークマター>虹極晶

魔力吸収・遮断率  魔法耐性強← →魔法耐性弱
時の砂=無水>ダークマター>虹極晶>ミスリル>オリハルコン>ヒヒイロカネ>アダマンタイト

物理攻撃力  攻撃力高← →攻撃力低
時の砂>アダマンタイト>ヒヒイロカネ>オリハルコン>ミスリル>虹極晶>ダークマター>無水

魔法攻撃力  攻撃力高← →攻撃力低
虹極晶>ダークマター>ミスリル>オリハルコン>ヒヒイロカネ>アダマンタイト>時の砂>無水

特殊能力遮断率  特殊耐性強← →特殊耐性弱
無水>時の砂>ダークマター>虹極晶>ミスリル=オリハルコン>ヒヒイロカネ>アダマンタイト


あくまで輪廻殺世界での設定です(大事な事なので(ry

まぁこれ等の設定もテキトーだから憶えなくて良いよ 機能するかわからんからw



それじゃ何時まで続くか…完結できるかどうかは知りませんが 次話あとがきで会いましょう


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